研究課題/領域番号 |
15K21048
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
増澤 智昭 静岡大学, 情報学部, 助教 (40570289)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ダイヤモンド / 低仕事関数 / 表面 / 電子放出 / PETE / TEC / 真空デバイス / 発電素子 |
研究実績の概要 |
本研究は,真空エレクトロニクスを利用した高効率発電デバイスの開発を目指し,コレクターに低仕事関数の表面を形成することで,高効率発電技術の実現を目指すものである。 平成 27 年度には,高効率発電技術への応用を目指し,ダイヤモンドの不純物と表面終端元素による仕事関数制御の実証に取り組んだ。先行研究では,リンを不純物として添加したダイヤモンドの水素終端表面について,熱電子放出に基づく仕事関数測定が行われ,0.9 eVという非常に小さい仕事関数が報告されていた。 本研究では,光電子分光法と電界放出電子分光法を組み合わせた測定を行い,リン添加ダイヤモンドのバンド構造を詳しく調べた。その結果,ダイヤモンド内部に上向き1.45 eVのバンドベンディングが存在すること,水素終端表面の電子親和力が -1.38 eVと負の値をとることがわかった。PETE発電デバイスの動作を考えると,エミッターから放出された電子が1.38 eVの電位障壁を乗り越えてダイヤモンド内部に注入されることを意味する。これをPETEの動作原理から考えると,数値上の仕事関数が小さいことよりも,表面終端とダイヤモンド内部でのバンドベンディングの抑制が発電効率向上につながる可能性を示し,発電デバイスの効率向上のために新しいアプローチの可能性を示す結果といえる。 また,炭素表面以外の低仕事関数表面として,ヒ化ガリウム(GaAs)表面をセシウムと酸素で処理することにより,負の電子親和力を持つ表面を形成し,光電子放出特性から仕事関数を評価した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では,基板上への炭素表面形成手法として,CVD法とナノカーボン形成法の2通りの実験を平成27年度中に完了予定であった。研究代表者の所属変更に伴い,新しい任地に実験装置を設置・運用する必要があったが,可燃性高圧ガスの使用等の理由で設置場所の整備に予想外の時間を要した。このため,当初は平成28年度に集中的に実施する予定であった,発電デバイスのための仕事関数制御を先行して実施することとした。 進捗の回復のため,外部の専門家に協力を依頼し,炭素表面形成のための実験条件等について助言を得ながら進めることとした。今後は助言を活用しつつ炭素表面形成法の確立に努め,進捗を回復する見通しである。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は,PETE発電デバイスに向けたコレクター表面形成法の確立を目指す。初年度に得られた知見により,従来提案されていたリン添加ダイヤモンド水素終端表面ではダイヤモンド内部に大きなバンドベンディングが存在することがわかった。このバンドベンディングは,ダイヤモンドの不純物準位と表面の終端元素によって大きく変化することが示唆されている。表面終端元素を変えることで,PETE発電デバイスに必要な低仕事関数表面の形成を目指す。 また,装置の導入が遅れていた炭素表面形成についても早急に研究を進め,基材の伝導タイプやバンドギャップの相性から,コレクターとして最適な基材/表面の組み合わせを決定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者の所属変更に伴い,当初導入予定であったCVD装置の受け入れ準備に予想外の時間を要したため。
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次年度使用額の使用計画 |
装置受け入れに必要な工事は平成27年度に完了し,現在は装置を導入済みである。平成27年度中に実施予定であった装置の追加部品については,導入が平成28年度になるものの,同年度内に導入・整備が完了する見込みである。
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