本研究は、家族性胃がんおよび若年性胃がんという遺伝性胃がんと呼ばれる胃がんを発症しやすい症例の生殖細胞における遺伝子異常を同定することにより、日本人の胃がん発症の遺伝的要因を明らかにすることが目的である。遺伝性びまん性胃がんの原因遺伝子であるE-カドヘリン(CDH1)遺伝子の生殖細胞変異およびコピー数異常が見つからなかった家族性胃がん6家系の発端者および血縁者11例、5家系の若年性胃がん患者および血縁者12例、がんの既往歴および家族歴のない健常者16例についてCytoScan HD Arrayを用いて、生殖細胞における染色体のコピー数変化を網羅的に調べた。胃がん患者で検出されたコピー数変化から健常者で検出されたコピー数変化を取り除き、①常染色体優性遺伝形式・劣性遺伝形式に当てはまる。②遺伝子のエクソンが含まれる。③構造多型データベース(DGV)に登録されている領域との一致率が70%以下である。という条件を全て満たす領域を家族性胃がんおよび若年性胃がんの発症に関与するコピー数変化の候補とした。その結果、各家系で10~60の領域が候補として絞り込まれた。絞り込まれた領域の中からがんと関わりのある遺伝子のコピー数変化を14領域選び、健康診断受診者105例についてTaqMan Copy Number Assayに行い胃がん患者特異的なコピー数変化であるか調べ、複数のアポトーシス関連遺伝子のコピー数変化が家族性胃がん患者および若年性胃がん患者にのみおきていることがわかった。本研究によって、CDH1遺伝子の生殖細胞変異およびコピー数異常の他にも胃がん発症に関与している遺伝子があることが示唆された。
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