遊離神経片を移植細胞のcarrierとして使用し、脱神経筋を再建する技術を確立した。胎児脊髄前角細胞を使用する技術は安定し、良好な成績が得られるようになった。移植細胞としてマウスES細胞、ヒューマンiPS細胞を使用する実験も平行して行っており、こちらも細胞生着と良好な軸索伸長を観察できている。大型動物を用いた実験にも取り組んでいるが、運動機能評価には至っていない。胎児脊髄前角細胞での移植では、細胞移植部である遊離神経片内に神経細胞・グリア細胞から成る結節性構造が作られており、これを組織学的に解析した。免疫染色、電子顕微鏡による評価によって中枢神経系である脊髄構造に類似していることが分かり、再生骨格筋の機能評価でも電気刺激によって良好な筋収縮が認められていることから、これは異所性神経節であると考えられた。移植細胞を胎児脊髄後根神経節由来の感覚神経細胞では、支配領域の皮下の感覚受容器と骨格筋内の筋紡錘への軸索再生を認めている。感覚神経細胞と運動神経細胞をハイブリッドで移植することで、反射回路が出来上がる可能性があり、当初予定の末梢完結型の運動機能再建に限らず、中枢へのフィードバックを組み込むことで随意的な機能再建を目指すことも可能であることが示唆された。運動制御のための工学的技術としては刺激電極を改良することで、小型化されるとともに神経への刺入が容易になり、また刺激の方法として、コイルを用いた非接触体外刺激を行うことができた。臨床導入を考えた際に体内装置に電源を必要としないことは大きなメリットになると思われた。
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