研究実績の概要 |
古典的な窒素系二座配位子であり極めて幅広い金属カチオンとの錯形成が可能である1,10-フェナントロリンを母骨格として利用するキラル配位子の創成は不斉合成化学において未開拓であり、申請者らは配位性のフェノール性水酸基を同一分子内に組み込んだ三座キラルフェナントロリン配位子を新たに設計し、各種金属を用いる不斉分子変換反応への適用に取り組んだ。本年度では新たに以下に示す2種類の金属を用いる不斉変換反応に成功した。 1、銅触媒を用いるβ-ケトエステル類の不斉ヒドロキシル化およびクロロ化反応 昨年度に開発した銅触媒を用いるオキシインドール類の不斉デイビス酸化反応の触媒システムの基質適用範囲の拡充を目指し種々検討したところ、環状β-ケトエステル類のヒドロキシル化反応において、反応が高エナンチオ選択的に進行することを見出した。反応機構の考察の結果、立体選択性の発現は銅エノラート種のプロキラル面選択制御が鍵となっていることが示唆された。この仮説に基づき、本触媒システムを他の求電子剤へと拡大させることに目的にとして種々検討したところ、N-クロロコハク酸イミドを用いるβ-ケトエステル類の高エナンチオ選択的な不斉クロロ化反応を開発することに成功した。 2、ニッケル触媒を用いるオキシインドール類の不斉マイケル付加反応 1と同様に、銅触媒によるオキシインドール類の不斉分子変換の開拓を目指し、不斉四級炭素中心を与える効果的な反応の一つであるマイケル付加反応を行った。金属スクリーニングにおいて本反応ではニッケル錯体が効果的な触媒であることを見出し、メチルビニルケトンをマイケル受容体とする反応が良好な立体選択性で進行した。
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