様々な非生物表面に対する強い付着性と自己凝集性を示すアシネトバクター属細菌Tol 5 細菌由来のAtaAファイバータンパク質は、その付着凝集メカニズムを知ることで、革新的な細菌の固定化に適応できる重要な知見が得られると期待できる。本研究ではAtaAファイバーの強い非特異的付着性を担うタンパク質の構造を明らかにするために、Tol 5細胞表面からAtaAファイバーを切り出す技術を用いて、様々なファイバー上のタンパク質ドメインを含むAtaAファイバー断片の精製を試みた。27年度までに、すでに構造が明らかとなっているファイバー上の5つのFGGドメインにそれぞれHRV3Cプロテアーゼにより切断される配列を付加した3CAtaA_FGG1~5コンストラクトを作成、あらかじめAtaAをノックアウトしたTol 5細胞に発現させた。その結果、5つのうち4つは野生型と同様の付着凝集性を示すも、N末端のヘッドドメインの根元付近にあるFGGドメインにプロテアーゼサイトを導入した3CAtaA_FGG1は顕著な付着凝集性の低下が見られた。3CAtaA_FGG2~5についてはプロテアーゼ処理によりAtaAファイバー断片が精製された。 28年度は、Nヘッドドメインの根元付近に存在するFGGドメインについて、プロテアーゼ認識サイトの導入部位を再検討し、最終的にはプロテアーゼ認識サイトを持ち且つ付着凝集性が低下しない3CAtaA_FGG1の作成に成功した。これを発現させた細胞をHRV3Cプロテアーゼで処理し、Nヘッドドメインを反応上清中に遊離させることに成功した。また切断処理後の細胞は凝集性と付着性が顕著に減少することが明らかとなった。このことはNヘッドドメインがAtaAファイバーの機能を担う重要なドメインであることを示唆していた。
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