研究課題
カーボンナノチューブ(CNT)は炭素原子のみで構成される円筒状の物質である。CNTの内部空間を利用した一次元物質の創出についても研究が進んでいる。しかし、これらの合成反応の多くは非常に高い温度条件下における熱融合反応を用いるのが一般的である。内包物質の加熱分解ののちに骨格を再構築することから、狙った物質をコントロールして合成することは容易ではない。すなわち、内包分子の骨格や性質を活かして、多種多様な機能性ナノカーボン物質群がデザイン・合成できれば、これまでにない特性が生まれることも考えられ、及ぼすインパクトは計り知れない。申請者は、ホモリティックに解離しやすい炭素-ハロゲン結合をあらかじめ化合物に導入しておくことで、CNTの内部で分子構造を活かした合成反応が進行するのではないかと想定した。本年度では、炭素-臭素結合をもつダイヤモンド分子である4,9-ジブロモジアマンタンを用いて検討を行ったところ、減圧条件下175度という従来よりも極めて低い温度で、CNTの内部に数珠状の物質を合成することに成功した。各種スペクトル測定の結果から、想定通りダイアマンタン骨格で繋がったポリマーであることが明らかとなった。また、本手法の反応機構については、CNT合成時の触媒である金属粒子が鍵となり、分子の炭素-臭素結合のラジカル的な解列を補助し反応が進行していることを確認している。さらに本手法が他の分子においても有用であることを見出すとともに、合成した1次元物質の新規抽出方法の開発にも成功しつつある。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度は炭素-臭素結合をもつ分子を用いてCNTの内部で1次元のポリマーを合成し、当初の想定通りにラジカル機構で反応が進行していることを明らかにした。その際に、CNT合成時の触媒である金属粒子が本反応の鍵であることを見出している。この知見を元に同様の戦略を用いることで、パイ共役分子の1次元のポリマーの合成へと展開しており、今後ますますの進展が期待できる。またそれに加えて、内部の1次元ポリマーを抽出する新たな手法についても開発にも成功しつつある。これによって本課題のターゲットである1次元ナノ物質のより詳細な物性解明へと展開することが可能になる。
今後の研究推進に関しては、現在見出しつつある新たな1次元ポリマー合成に取り組むとともに、CNT内部に合成した1次元ナノ物質の抽出法の確立を目指す。また、取り出した1次元ナノ物質の詳細な解析および物性解明にも着手する。得られた性質をもとにターゲットとなる1次元ナノ物質のデザインへとフィードバックを行ない、より効率的な合成および物質の創成を目標とする。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 5件、 招待講演 1件)
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