本年度では、前年度に見出した芳香族化合物を原料に用いたカーボンナノチューブ(CNT)内部空間におけるポリマー合成の最適化を行った。ジブロモビチオフェンを原料に用いて減圧条件下220℃で加熱することにより、CNTの内部空間にポリチオフェンを合成することができる。透過型電子顕微鏡による観察から確かにCNTの内部には1次元状のコントラストが確認できた。吸収スペクトルからは少なくとも36量体以上のポリマーの生成が示唆されており、これは電子顕微鏡像とおおよそ良い一致を示した。ラマンスペクトルから生成したポリチオフェンがねじれの極めて少ない骨格であることを示唆しており、これはCNTに内包された効果であると結論づけた。また、ラマンスペクトルからは金属性CNTへの選択的なp型ドーピングが起こっていることも明らかとなった。 同様の手法によって、ジブロモビアントリレンを用いてのグラフェンナノリボン(GNR)の合成にも成功している。透過型電子顕微鏡による観察からはGNRが螺旋状にねじれた構造を取っていることが確認できる。ラマンスペクトルにおいてはGNRの幅方向の大きさを示すRBLMのピークが396 cm-1と原料の大きさに対応するGNRが合成できていることを指し示している。その他のピークからもGNRの生成を示唆する結果が得られている。このように、様々な1次元物質の合成が可能であることを示しており、今後の様々な内包が達成されることが期待できる。
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