研究課題
細胞の分化には、細胞系統を方向づける一連の遺伝子発現の制御が重要となる。近年、染色体の遺伝子領域がルーピングを形成して離れた遺伝子領域が3次元的に近接することにより遺伝子発現が制御されることが分かってきた。染色体ルーピングの制御機構は不明な点が多いが、申請者らの研究成果より、コヒーシンが関与することが明らかになった。本研究では、コヒーシンによる染色体ルーピング形成の制御が、細胞分化における遺伝子発現制御にどのように関わるのか、T細胞をモデルとし解明することを目的とする。申請者らはT細胞分化に重要なCpa3、及びLck遺伝子プロモーター制御下でCreが発現するトランスジェニック(Tg)マウスとコヒーシンの活性化ドメインの1つであるSmc3遺伝子にloxPを挿入したSmc3 floxedマウスを交配し、T細胞で特異的にSmc3を欠損するコンディショナル ノックアウト (Smc3 cKO) マウスを作製した。Smc3 cKOマウスでは、野生型マウスに比べ胸腺細胞数が著しく減少していた。フローサイトメトリー解析を行い、分化段階ごとのT前駆細胞の割合を調べたところ、分化段階が後期のCD4 / CD8 double positive (DP)細胞が減少し、より未熟なCD4 / CD8 double negative (DN)細胞は増加していた。このことから、DNからDPへの分化の進行にコヒーシンが重要な役割を果たしている可能性が示唆された。現在、DN細胞におけるT細胞受容体の遺伝子再構成にどのような影響が出るかについて焦点を当て、引き続きSmc3 cKOマウスの解析を行っている。
2: おおむね順調に進展している
飼育しているSPFマウス飼育室で真菌感染が発生し、マウスと飼育室のクリーン化のために実験計画を一部変更し、Smc3 cKOマウスの交配にも時間を要したものの、解析を年度内に始めることができた。Smc3 cKOマウスでは、胸腺細胞の著しい減少や、T細胞分化の障害が見られたことから、さらなる詳細な解析により研究の進展が期待されるため、おおむね順調に進展していると判断した。
DN細胞におけるT細胞受容体の遺伝子再構成にどのような影響が出るかについて焦点を当て、解析を進める。Creが発現しSmc3が欠損した細胞で解析を行うため、Smc3 cKOマウスとROSA26-YFPレポーターマウスを交配し、YFP陽性細胞をセル・ソーターにより分取し、解析に使用する。
飼育しているマウスに真菌が感染していることが発覚し、マウスと飼育室のクリーン化のために時間を要した。そのため、計画していた一部の実験の遂行を翌年度に変更せざるを得なくなった。
感染事故後のマウスのクリーン化は無事に完了し、マウスは順調に繁殖が進んできた。従って、当初今年度に計画されていた実験計画は次年度に遂行できる見込みである。それと合わせて、当初次年度に計画されていた実験計画も予定通り進め、繰り越した経費はこれらの研究遂行に充てる予定である。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (1件)
The Journal of Immunology
巻: 195 ページ: 1804-1814
10.4049/jimmunol.1302456