研究課題/領域番号 |
15K21098
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
渡邊 仁美 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 助教 (80624056)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | Lcn2 / 免疫細胞 / 常在細菌叢 / 生殖ホルモン / インヒビン |
研究実績の概要 |
本研究では、精子活性化因子のひとつであるLipocalin2(Lcn2)の子宮粘膜からの発現制御機構について、それを制御する外的・内的因子について解析をすすめている。これにより生殖粘膜の微小環境がもたらす受精制御機構が明らかとなり、不妊症治療法開発の基礎となる分子基盤確立が期待される。前年度は、Lcn2の恒常的発現にRAG2依存性の免疫細胞や常在細菌叢の関与を示唆する結果を得た。また、Lcn2発現が低値であるモデルマウスに交尾刺激を加えるとLcn2が強力に発現することを見出し、Lcn2の恒常的発現と交尾刺激による発現誘導は独立に制御されていると考えられた。本年度は、特に子宮体部Lcn2の恒常的発現機構について解析をすすめた。マウスでは、子宮粘膜の増殖・分化・退行といったいわゆる性周期は、4日で1サイクルを回るが、これらは様々な生殖ホルモンの階層的制御によりもたらされる。とくに卵胞刺激ホルモン(FSH)や黄体形成ホルモン(LH)といった下垂体ホルモンは、この制御機構の上位に位置し、その影響は大きい。そこで、子宮や卵巣等の生殖器は完成しているが、性周期がまだ十分確立していない4週令のメスマウスに下垂体ホルモンと同様の作用をもたらすPMSGおよびhCGを投与して性周期を擬似的に誘導し、Lcn2の発現をリアルタイムPCRで調べた。その結果、Lcn2は2日周期で発現の上昇・下降を示すことがわかった。また下垂体ホルモンの分泌を負に制御するインヒビンに対する中和坑血清を同時に投与するとLcn2は低値となりまた発現の周期性も消失した。このことから、Lcn2の恒常的発現には生殖ホルモンも深く関与していることが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度の成果として、Lcn2の発現は、恒常的発現と交尾誘導的発現に区別されることがわかり、恒常的発現には外的因子として常在細菌叢→免疫応答が関与していることが示唆された。本年度では、これに加えて内的要因として生殖ホルモンが関与していることがわかった。特にインヒビンのLcn2周期性発現への関与を示唆する知見は、大変興味深い。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題では、引き続き階層的に制御されているLcn2の内的・外的因子について遺伝学的、分子生物学的、免疫学的手法を用いて詳細な解析を進めていく。特に前年度までに得られた恒常的Lcn2発現機構と精子活性化メカニズムおよび最終的な産仔数の相関について検討を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究成果として、Lcn2の恒常的発現には生殖ホルモンが深く関与していることが明らかとなり、研究が予想外の展開を示した。このため次年度は、生殖ホルモンによるLcn2発現制御機構をより詳細に解析するために研究費を重点的に使用する必要が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
生殖ホルモンによるLcn2発現にかかわる遺伝子群の網羅的解析に使用する予定である。
|