本研究は、難治性である肺癌、膵臓癌をはじめとする胸腹部腫瘍に対する放射線治療において問題となる、腫瘍の呼吸性移動による照射位置の不確定性を低減することを目標とした。近年、放射線を腫瘍のみに限局して照射する高精度放射線治療が広く臨床応用されるようになったが、胸腹部腫瘍においては腫瘍の呼吸性移動範囲を包含する照射法が一般的であり、照射位置の不確定性が問題となる。本研究は、呼吸性移動を有する胸腹部腫瘍に対する四次元画像誘導放射線治療の1つである動体追尾照射において、必須技術である腫瘍の未来位置予測に関して新たな予測モデルの精度を評価し、四次元放射線治療のさらなる高精度化の実現に貢献した。 平成29年度は、開発した四次元放射線治療の品質管理を高精度に実施可能な線量精度検証システムを用いて、臨床導入した新たな腫瘍未来位置予測モデルに対し、臨床使用時における取得条件とその精度を定量的に明らかにした。患者呼吸波にはベースラインドリフトと呼ばれる治療中の継続的な位置変化が見られ、治療開始時に作成した腫瘍未来位置予測モデルでは、時間経過に伴い正確な予測が困難になる。開発した高精度四次元動体ファントムを用いることで患者呼吸波を高精度に再現し、治療中の呼吸変化を含めた精度検証を実施した。新たな腫瘍未来位置予測モデルは、治療中の腫瘍位置情報を基にモデルを更新することで、呼吸変化による腫瘍未来位置予測の不確定性を低減可能であることを明らかにした。また、治療中の腫瘍位置情報取得間隔が更新された腫瘍未来位置予測モデルの精度に及ぼす影響を定量的に評価し、2秒以上の取得間隔では呼吸波のピークが捉えられず、予測モデルの精度が担保できない危険性も明らかにした。本研究成果はMedical Physicsに採択され、高く評価された。
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