研究課題/領域番号 |
15K21104
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
引間 悠太 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50721362)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 近赤外分光法 / 複屈折 |
研究実績の概要 |
近赤外光は,化学構造に対応した吸収特性を示すという赤外光の特性と,高分子材料への透過性が高いという可視光の特性とを併せ持つ.よって,従来の赤外分光法では難しかった,数mm程度の厚みを有する成形体内の構造評価への応用が期待できる.本研究では近赤外光の特性を利用した高分子成形体中の異方性の可視化手法として,(1)吸収二色性と,(2)複屈折を利用する2通りの手法について検討を行った. 本年度は,まずリタデーション既知の位相差フィルムの偏光近赤外分光測定を行い,近赤外複屈折の検出可能性を検討した.2枚の偏光板を用いて直交ニコル位で顕微近赤外/赤外分光測定を行った結果,1.5 ~ 2.5μmの波長範囲で,透過光強度の波長依存性が確認された.また,偏光子の軸方向とフィルムの軸方向が平行な場合は光が透過せず,45度の角をなす場合は光強度が最大となることから,透過光強度変化は近赤外複屈折によるものであることが確かめられた. 次に,厚さ2mmのポリ乳酸射出成形品内の流動分布の可視化を試みた.ゲート近傍の不均一な流動状態を示す領域について,近赤外二色性と近赤外複屈折のイメージング測定を行ったところ,二色性はほぼ検出できなかったが,スペクトルのベースライン変動から,試料の流動状態の鋭敏な可視化に成功した.これは試料表面近傍の一部の層のみがせん断により強く分子配向しているためと考えられる.このような試料の場合は流動性の評価に近赤外複屈折の利用が有効であることを示した. また,微小領域における温度勾配下での高分子結晶化解析に向けて,チップ型マイクロヒーター上のPPおよびPBTの顕微近赤外分光測定を試みた.各高分子について冷却条件による結晶性の違いを近赤外スペクトルから検出可能であることを確かめた.一方で反射光学系を採用する必要があるため,偏光解析のためには偏光子配置の再検討が必要なことが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り,配向性の試料の近赤外スペクトルに現れるベースライン変化が,複屈折に由来することを確かめた.一方で可視領域でのリタデーション値から予測されるベースライン変化は実測値と定性的に一致したものの,それらの間の差異については今後の検討が必要である.次年度前期に複屈折の波長分散を考慮し,検討を行う予定である. また本年度中にマイクロヒーターの作成を行う予定であったが,研究室に導入された別装置用のチップ型マイクロヒーターが使用できることとなったため,予定を繰り上げ,顕微近赤外分光測定に適切なサンプルサイズの検討,結晶化条件を変化させた際の近赤外スペクトルの変化を調べた.またホットステージに急速冷却のための冷却管と,マイクロヒーター通電用のコネクタの増設を行ったため,次年度はマイクロヒーターとホットステージを組み合わせた測定を行う予定である.
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今後の研究の推進方策 |
次年度はまず下記の2点に取り組む予定である. (1)近赤外スペクトル内でのベースライン(透過光強度)変化を用いた複屈折の定量評価法の開発 (2)高分子結晶化過程における顕微近赤外分光イメージング測定
(1)では,近赤外複屈折に由来すると思われるスペクトルベースライン変化について,近赤外波長域までの複屈折の波長分散を考慮して,理論的な裏付けを試みる.これを行うことにより,実際の高分子成形体中に生じる複屈折性分布の定量的なイメージングが可能になる.また,同一試料内での異方性を定量的な二次元画像として評価が可能になった場合,別波長帯に現れる近赤外吸収二次元画像との相関を調べ,各化学種の寄与の推定も試みる予定である. (2)では,マイクロヒーターとホットステージを組み合わせ,顕微鏡下で試料の局所高速昇温・冷却を試みる.さらに顕微近赤外分光イメージングと合わせて,局所加熱により生じる温度勾配下での結晶化状態の評価を試みる.
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次年度使用額が生じた理由 |
光学系再設計に必要な物品を購入するためには不足していたため,次年度予算と併せて購入するため.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度予算と併せて,偏光子を固定するホルダーなど,光学系に必要な物品の購入に使用する予定である.
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