本研究の目的は、放牧地をめぐる対立の事例を複数分析してローカルな合意形成の要件を抽出するとともに、牧草改良活動の導入によって住民の資源管理への積極的関与を促し、これらを踏まえて人々の主体的な協議を基盤とした放牧地管理システムを構築し、その指針を明らかにすることであった。 最終年度である本年はこれまでに得たデータを総合的に分析した。その結果、放牧地をめぐる争いは解決していないと人びとが語る一方で、暴動が発生するわけでもなく、深刻な飼料不足にも至っていないという矛盾が浮き彫りになった。 この地域では在来牛は牛耕のための労働力ととらえられており、直接的にお金を生み出すものではない。したがって、人々はできるだけお金のかからない方法で在来牛を飼養する必要がある。近年、放牧地として重要だった湿地が農地化され、放牧のみでは不十分な状態が続いているが飼料作物を栽培するほどのコストや時間をかけるわけにはいかず、ふすまなどを集めてきて放牧を終えた牛に与えることで飼料を補っていた。土地をめぐる対立が対面的に解決されていなくても、飼料獲得に最低限のコストをかけることで深刻な状態を回避して「なんとかやっていける」という状態を作りだしていた。 本研究より、ローカルな合意として、話し合いの場において意見が一致する「合意」だけではなく、日常において強い非合意が存在しない状況としての「合意」がありうるということ、後者の「合意」には人びと資源利用に関する最小努力と創意工夫が関係していることを示すことができた。 本研究では、当初、農民グループの結成による放牧地管理システムの構築を計画していたが、合意に関する新たな知見を得たことで、むしろ、現在の状況では在来牛に関して高いコストをかける方法は適切ではなく、バイオマス残渣をうまく活用して低コストで飼料を得る方法を検討していく必要があるとの結論に至った。
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