研究課題
Von Hippel-Lindau(VHL)病は、VHL癌抑制遺伝子のgermline mutationを原因とする常染色体優性遺伝性の家族性腫瘍症候群であり、腎細胞癌、褐色細胞腫、血管芽腫など様々な腫瘍を発症・併発する。遺伝性VHL病は若年性に発症し、高リスクの場合QOLの低下が問題となる。VHL病遺伝性腫瘍のリスク因子としてVHL遺伝子を含む複数の遺伝子変異が報告されているが、VHL病の発症・進展のメカニズムは未だ不明な点が多く、根治療法の開発には至っていない。本研究は、より最適なin vivo及びin vitroのヒトVHL病疾患モデルの構築を目指し、樹立したVHL病患者(VHL mut/+)由来の疾患特異的iPS(VHL iPS)細胞を用いて、ヒトVHL病の表現型を再現し得るin vivo疾患モデルの構築と、ヒト腫瘍由来細胞株が樹立されていない褐色細胞腫や血管芽腫などのVHL病腫瘍細胞株の樹立(in vitro実験系の確立)を目的とする。平成27年度は、1)in vivo疾患モデル:VHL iPS(VHL mut/+)樹立細胞を用いて、VHL病腫瘍の再現性の評価・検討と、VHL病腫瘍の発生機序に則して任意にVHL mut/-を誘発するVHL iPS細胞の作製、2)in vitro実験系:新たに確立した、ヒトiPS細胞から褐色細胞腫の発生母地細胞への分化誘導法の有用性と分化誘導を促進し得る候補分子の有用性の評価・検討を行った。研究成果としては、新規in vitro分化誘導法による目的の褐色細胞腫の発生母地細胞への分化誘導の可能性を示し、また分化誘導を促進し得る候補分子ついても絞り込みに至る結果が得られた。一方、年度内にVHL mut/-を誘発するVHL iPS細胞は得られなかったが、目的細胞を獲得できた場合、本年度の成果よりヒトVHL病疾患モデルの構築が可能と考える。
3: やや遅れている
VHL iPS(VHL mut/+)樹立細胞をNOD/SCIDマウスに移植した今回の実験条件下においてはVHL病腫瘍の再現は確認できず、当初予想した通り、片側alleleのみのVHL遺伝子変異(VHL mut/+)ではVHL病腫瘍の発生には不十分と思われた。効率良くVHL病腫瘍を再現するためには、任意にVHL mut/-を誘発するシステムをVHL iPS(VHL mut/+)樹立細胞に組み込んだ目的細胞が必須であると考える。しかし、年度内に目的細胞の獲得には至らなかった。一方、201B7ヒト正常iPS細胞を用いた先行実験の結果、新規in vitro分化誘導法を用いて得られた分化細胞群において、分化マーカー遺伝子のmRNAならびにタンパク質発現が認められた。今後さらに目的細胞を単離・培養して評価・検討を行う必要はあるが、ヒトiPS細胞から褐色細胞腫の発生母地細胞への分化誘導の可能性を示唆する結果が得られた。これは当初予定していた以上の成果である。さらに、褐色細胞腫の発生母地細胞への分化誘導を促進すると推測される複数の候補分子について遺伝子発現ベクターを作製し、適当な細胞へ遺伝子導入して評価・検討を行った結果、候補分子の絞り込みに至る結果が得られた。
新規in vitro分化誘導法を用いて得られた分化細胞群は、培養条件ならびに分化マーカー遺伝子の発現パターンの結果から様々な細胞が混在している可能性が示唆された。そのため、次には、分化マーカー遺伝子を指標にして目的の褐色細胞腫の発生母地細胞を単離・培養し、その特徴づけを行うとともに、新規in vitro分化誘導法の評価を行う予定である。一方、平成27年度に予定していた、任意にVHL mut/-の誘発を可能とするVHL iPS細胞の作製は本研究の最重要事項であるため、目的細胞の樹立が急務である。そのため、ゲノム編集効率の改善・向上に向けて、発現プロモーターの改変、TALENあるいはCRISPR/Cas9のゲノム編集技術の導入などを計画している。目的細胞を獲得できれば、in vivo実験系ならびにin vitro分化誘導実験系については概ね確立に至っているので、次年度に予定している研究計画を遂行できるものと考える。
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実験医学
巻: 34 (4) ページ: 546-550