研究課題/領域番号 |
15K21112
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
八田 振一郎 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70420396)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 超薄膜 / 表面電子状態 / 電気伝導 / 角度分解光電子分光 |
研究実績の概要 |
本研究は、半導体基板上に作成した超薄膜・単原子膜の電気伝導特性に対する原子・分子吸着の効果を明らかにする目的で、主に超高真空下で行う4端子電気伝導測定と角度分解光電子分光法を用いた実験を実施してきた。同時に、電気伝導測定において磁場を印可できるよう装置製作も行った。 27年度実施した主な実験の内容はSi(111)基板上に作製したIn二原子層の電気伝導度の温度依存性と電子状態に対するFe(Ⅱ)フタロシアニン(FePc)分子の吸着効果である。In二原子層は低温(~3 K)まで金属的な電気伝導特性を示すことが知られている系であり、また、酸素吸着によるごく少量の欠陥の導入によってそれが失われることが知られている。これに対し我々が行ったFePc分子の吸着では、多層膜であっても金属性が失われないことが分かった。これはIn層とFePc分子の相互作用が弱いことを示唆しており、比較的安定な分子骨格をもつ吸着子を採用した研究計画における予測に合った結果である。また、光電子分光により吸着前後の表面電子状態を比較したところ、バンド構造に変化はなく、電気伝導測定の結果と整合した結果が得られた。一方、FePc分子が規則的に配列した状態になるとシート抵抗率の温度係数が変化することを発見した。このような現象は金属的な表面電気伝導を示す系で初めて見つかった。 この他、トポロジカル絶縁体の一種であるBi2T3超薄膜の電子状態および電気伝導性についての測定も行った。その結果、1構成単位の膜においても金属伝導を示すことを初めて観測した。 磁場印可装置については、磁界発生装置の製作とそれに伴う超高真空容器の改造を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初金属原子の蒸着実験から進める予定であったが、蒸発に高温加熱が必要な遷移金属を極めて低いレートで再現性よく蒸着させることが困難であったため、分子の蒸着実験から実施するように計画変更を行った。分子蒸着においても加熱温度のわずかの揺らぎの影響が見られたため、るつぼの温度揺らぎを±1 K以内に制御する機器を作製してこれを解決した。結果として、分子吸着の電気伝導特性への影響を精度よく調べることができ、実験は概ね順調に進行している。 In二原子層の電気伝導に対するFePc分子吸着効果について、中心金属(Fe)のスピンによる近藤効果の発現を予想したが、9 Kまでの測定では計測されなかった。一方で、吸着条件による温度係数の違いが発見されたため、電子状態に加えて構造的な情報を得る実験を進めた。その結果、FePcの吸着状態(構造)が200 K付近で変化することを見つけた。吸着子の効果を調べるにあたり構造の情報が不可欠であることが分かり、次(最終)年度の研究を進める上で重要な知見が得られた。 磁場発生装置を用いた電気伝導測定の実施については、進行中の実験の状況を考慮し、次年度に繰り延べした。
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今後の研究の推進方策 |
低レートでの分子蒸着の制御に関する実験上の課題は概ね解決できたと考えているが、分子種ごとに細かい調整と吸着状態の分析が必要となるため、試料の数を当初計画より減らす一方、中心金属の役割を明らかにするため、中心金属を持たないH_2PC分子による実験を加える。また、金属伝導を示す超薄膜として新たにBi_2Te_3超薄膜が利用できることが分かった。この系は三次元トポロジカル絶縁体の一種であり、特異なスピン偏極表面電子状態をもつ。この系における吸着子による散乱効果を通常の金属薄膜と比較することにより、新しい現象の発見につながることが期待される。
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