研究課題/領域番号 |
15K21116
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
伊藤 伸幸 京都大学, グローバル生存学大学院連携ユニット, 特定准教授 (30742605)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 水質取引プログラム / 水質取引オークション / 汚染寄与度 / 非対称オークション / 非点源汚染 |
研究実績の概要 |
28年度は水質取引オークションの学生を対象としたラボ実験を行い、汚染寄与度の異質性に関する情報を水質取引オークションでどのように利用すべきかといった制度設計の課題に実験経済学的アプローチを用いて取り組んだ。 水質取引(プログラム)とは、水質汚濁物質を排出している工場や下水処理場等の点源や農地等の非点源の間で、水質クレジット(許可証)を取引することによって、社会全体が負担する汚染削減の費用を減らすことを目的とした制度である。本研究が課題として取り組んでいる水質取引オークションは、非点源が排出削減クレジットの売り手となって希望する売値を入札し、点源あるいは行政当局が買い手となって水質クレジットを購入する水質取引のためのオークションである。クレジットの売買契約が成立した非点源は、水質クレジットの削減量に相当する排出削減の義務を負う。農地等の非点源間では、閉鎖性水域からの距離や土壌の質、天候といった地理的条件が異なることから、非点源の間で閉鎖性水域の水質に対する汚染寄与度に異質性が存在する。また、農家等の排出者間では、生産される財の多様性や生産技術が異なることから、排出削減の機会費用にも異質性が存在する。 28年度は環境経済学分野の水質取引オークションの実験研究に関する文献調査や一般的なオークション理論の文献調査を行った。また、非対称オークションの理論モデルを応用し、各汚染源の汚染寄与度の異なる非対称オークションに対応する対照オークションについて理論的な分析を行った。さらに、単数の水質クレジットが取引される1位価格と2位価格の水質取引オークションについて学生を対象にラボ実験を行い、価格ルールや汚染寄与度の異質性がオークションを通じた非点源汚染の削減費用に与える影響について分析を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではこれまで、閉鎖性水域の非点源汚染問題について、各汚染源の汚染寄与度に関する情報を、水質取引オークションの制度設計に利用するべきかという課題に取り組んできた。 27度は特に理論研究に重点をおき、環境経済学分野の水質取引オークションに関する文献調査や、より一般的なオークション理論の分野の文献調査を行った。また、水質取引オークションに関する理論研究、実験研究、及びフィールド研究で多くの研究業績を上げているペンシルバニア州立大学のJames Shortle教授に、理論分析に関する文献調査やそれらに基づいた水質取引オークションの制度案について意見を求めたところ、非常に興味深いというコメントを得ることができた。さらに、今後のラボ実験の実験デザインとフィールド調査についてもJames Shortle教授との共同で研究を進めていく体制を整えた。 28年度は、最も単純な1単位の水質クレジットを取引するモデルについて考え、各汚染源の汚染寄与度の異なる非対称オークションに対応する対照オークションについて理論的な分析を行った。さらに、1位価格と2位価格の水質取引オークションについて学生338名を対象にしたラボ実験を行い、汚染寄与度の異質性がオークションを通じた非点源汚染の削減費用に与える影響について分析を行った。
|
今後の研究の推進方策 |
29年度は、前年度のラボ実験の分析結果についてワークショップや国際学会で報告し、学術論文を執筆する。また、執筆した学術論文を国際学術雑誌へ投稿する。 29年度はさらに、複数財のモデルについてラボ実験による研究を進める。28年度は最も単純な1単位の水質クレジットが取引されるモデルについて分析を行ったが、実際の水質取引オークションでは複数の水質クレジットが取引されるため、モデルの拡張が必要である。29年度は、複数財のモデルについて理論的な分析を行う。さらに、水質クレジットの買い手に予算制約があるモデルや、汚染寄与度の異質性に応じて市場を細分化する制度についてラボ実験を行う。オークションの実験では、売り手の入札額の集計や買い手による落札を経済実験用ソフトウェアz-Treeでプログラムする。ラボ実験は学生を対象とし、平成29年6月から9月の間に行う予定である。さらに、ラボ実験の分析結果についてワークショップや国際学会で報告し、学術論文を執筆する。国際学術雑誌へ投稿する。また、執筆した学術論文を国際学術雑誌へ投稿する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、1単位の水質クレジットが取引されるモデルの実験トリートメントを、そのまま複数単位の水質クレジットが取引されるモデルのラボ実験で調べる計画であったが、より複雑な複数単位の水質取引オークションでは、これまでの研究で汚染寄与度の異質性に応じた市場の細分化や、それに伴う予算配分の方法など、興味深い制度案を分析できることが分かってきたため、単数のラボ実験の回数を減らし、複数単位のラボ実験の回数を増やす。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成29年度4月から7月の間に複数財の水質取引オークションの理論分析を行い、実験で分析する制度案について考察する。それらの分析結果に基づき、6月から9月の間にプレテスト及び本実験を行う予定である。
|