研究課題/領域番号 |
15K21120
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
中村 守正 京都工芸繊維大学, ものづくり教育研究センター, 准教授 (00464230)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ドライコーティング / DLC膜 / 損傷 / 繰り返し / 面圧 |
研究実績の概要 |
研究実績は,繰り返し押し付け試験機の不具合を解消したこと,このことによって,繰り返し精度,再現性ともに良好な試験が行えるようになったこと,さらに,繰り返し押し付け試験によってDLC膜に生じる損傷モードを明らかにしつつあること,この結果,国際会議発表を2件行えたことである. 昨年度設計,製作した,繰り返し押し付け試験機に発生したプーリと押し付け圧子の接続ロッドが試験中に軸方向に動くこと,円筒型ジグの締結ナットが試験中に緩むこと,押し付け試験圧子と上下運動部分を留めた部品が試験中に折損するといった種々の不具合に対処してきたが,折損,破断はしないものの,試験中に同様の不具合が発生し,対策が全く十分でないことがわかった. そこで,これら不具合に対する対処を改めて検討した.試験中に発生するロッドの運動については,セットカラーを取り付け可能な構造に変えることで解消できた.ナットの緩みについては,押し付け圧子の交換時やメンテナンス時に若干の作業不便性を感じるものの,ロックナットを採用することで,解消することができた.押し付け試験圧子と上下運動部分を留めた部品の折損については,部品の形状,寸法を見直し,折損部位の厚さをこれまでの5mmから8mmにすること,コーナ部にできるだけ大きなRを付けた形状にして,当該部品の強度を向上させることで対策した.これら対処の結果,いくつもの繰り返し押し付け試験を行ったが,不具合は全く生じていない. 不具合に対する対処が完了したので,繰り返し押し付けによって発生するDLC膜の損傷モードについて検討した.その結果,繰り返し押し付けた圧子の痕が数μm程度と比較的深いほど,圧痕内部にDLC膜のはく離や割れといったDLC膜のはく離に繋がる致命的損傷が発生していた.一方,圧痕が数百nmと浅いとDLC膜の損傷は圧痕の外周部分に発生する傾向があることがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初予定では,一昨年度に設計,製作した試験機に発生した不具合の全てに対処を行い,これが完了し,本試験を行える予定であったが,対処に対する検討が不足しており,再び不具合が発生してしまった.そのため,この対処に時間を要し,本来,上期で着手することを予定していたDLC膜の損傷モードの調査が下期になってしまった.さらに,下期に行う予定であった,もう一つのテーマである,より高速で繰り返し押し付け試験が可能な,超音波振動を用いた試験法についての本格的な検討が新年度にずれ込んでしまった. しかしながら,予定からの遅れといった問題だけではなく,成果も挙げており,不具合を解消した結果,DLC膜の損傷モードについて検討を進めることができ,この結果で2件の研究発表(どちらも国際会議)を行うことができた.またもう一つのテーマの超音波振動を用いた試験法についての本格的な検討を既に進めており,超音波振動を用いた全く新たな試験装置の構想,構造を概ね纏めた. 以上のことから,上記のような自己評価とした.
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策は2点あり,1点目が繰り返し押し付け試験を行う回数(n数)を増加させ,DLC膜の損傷モードについてより詳細に検討すること,2点目がより高速でDLC膜の損傷を調査可能な,超音波振動を用いた繰り返し押し付け試験機の開発とそれによる損傷モードの調査である. 1点目は,具体的には,これまでに制作した試験機を用いて試験n数を増加させることで,結果の再現性の確認と,試験条件がDLC膜の損傷モードに及ぼす影響について調査することである.試験条件の変更項目として,面圧,押し付け速度を検討している.面圧については,圧子球の大きさや材料,試験機に取り付けたばねのばね定数を変えることで検討できる.圧子にこれまで直径10mmのSUJ2球を用いてきたが,圧子を取り付けるジグの構造から,直径10mmよりも小さな球を用いて試験を行うことも可能である.さらに,圧子に用いている球に,SUJ2よりもヤング率の高いアルミナやジルコニアといったセラミックス製のものを用いることで,ヘルツ面圧がより高い状況で試験が可能である.また,DLC膜を被覆した基材を圧子に押し付けるため,コイルばねを用いているが,現在用いているばねのばね定数がより高いものも用意している.一方,面圧だけでなく,押し付け速度が損傷モードに及ぼす影響についても調査が必要であるが,速度の変更は繰り返し押し付けに用いているインバータモータの回転速度を変えることで可能である. これらの検討と並行して,より高速でDLC膜の損傷について調査可能な,超音波振動を用いた繰り返し押し付け試験機の開発にも着手する.本格的検討を既に進めており,超音波振動を用いた全く新たな試験装置の構想,構造を概ね纏めている.構造はできるだけ簡単にしているので,比較的早期に試験機を組み立てて,試験に着手することができると考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度の研究実施が計画より遅れてしまったため,次年度に遂行することになった計画があり,この計画で必要な物品を購入するのに次年度使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は,これまでの繰り返し押し付け試験を試験条件を変えて行うことを検討しており,そのための消耗品購入費に予算を執行する.さらに,超音波振動を用いた試験法の開発に本格的に着手するため,超音波振動発振装置,ランジュバン型振動子などの購入に予算を執行する.
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