研究課題
光合成反応中心(RC)は太陽光エネルギーを電気化学エネルギーに変換する膜タンパク質である。RCにはクロロフィルやキノンといった補欠分子が存在する。RCは酸素発生型(光化学系I, 光化学系II)と非酸素発生型(Type 1, Type 2)の4種類に分類することができる。緑色光合成細菌へリオバクテリアは非酸素発生型のType 1 RCをもち、その構造は唯一解明されていない。この構造を決定することは、光合成反応中心の進化を知るうえで不可欠である。本研究では、へリオバクテリア由来のRCを高分解能で結晶構造解析することを目指し、結晶化条件の最適化および回折データの処理の検討を行った。これまでに、2つの界面活性剤を用いて空間群C2およびR3の結晶を得た。この2つの結晶を分子置換法により初期位相を決定し、精密化を進めた。その結果、2つの結晶はほぼ同じヘリックス構造をとっていることが分かった。また、クロロフィルスペシャルペアやそのほかのクロロフィル、キノンの位置を決定した。C2結晶では、ダイマーの2回軸が結晶の2回軸と一致しており、ペプチド鎖だけでなく、補欠分子を含めた完全なホモダイマーであった。C2結晶とR3結晶の大きな違いは、機能未知のヘリックスが1本あるか否かであった。C2結晶では現在の解析結果では未知のヘリックスは同定できていないが、R3結晶では未知のヘリックスの電子密度が確認できた。この機能未知のヘリックスを同定するために、アミノ酸シークエンスを行った。その結果、17残基を決定することができた。現在の分解能からは、補欠分子の配向の詳細を決定することは難しい。そこで、電子スピン共鳴(ESR)法を用いて、各補欠分子の配向を決定することを試みた。
2: おおむね順調に進展している
大型放射光施設Spring-8のBL44XUとBL32XUを使用し、回折データの収集を行った。界面活性剤DDMを用いた結晶の分解能向上のため、複数の回折データをマージし、現在2.8Å分解能で処理を行っている。UDMを用いた結晶は、分解能を向上させるために結晶化条件の更なる最適化を行った。また、ESRのX-bandを用いて、溶液状態のRCを測定した。還元状態にし、210 Kで光照射を行いあらかじめキノン受容体A1-を蓄積した状態で実験を行った。還元状態下でラジカル対P800+A0-のスピン分極信号の測定に成功し、解析を行っている。
結晶構造の精密化を引き続き進めていく。W-band ESRで結晶を測定したところ、結晶がもう少し大きい方が測定しやすいことが分かった。しかし結晶が大きくなると、W-band用のキャピラリーに結晶を入れることが難しくなる。そのために、今後は、より大きな結晶を得ること、キャピラリーの改良を加えることが必要であると考えている。
2016年度はこれまでに収集したデータをもとに解析を行った。そのため、ウェットの実験は電子スピン共鳴解析とアミノ酸シークエンスにしぼった。その結果をもとに、当初予定していた実験に加え、次年度に新たな実験を行うため、使用額の繰り越しを行った。
消耗品:タンパク質精製の改良のため、界面活性剤、脂質、ナノディスク、緩衝剤などの試薬、およびカラムなどを購入する。界面活性剤、脂質、ナノディスクは高価なものであり、長期保存が効かないため、数回に分けて購入する必要がある。人件費:研究を円滑に進めるために、技術補佐員を雇用する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 5件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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