太陽光の光エネルギーを電気化学エネルギーへ変換する光合成反応中心(RC)タンパク質の反応効率は極めて高く、ほぼ100%に達する。このような高効率な系の反応機構を原子レベルで解明することは、光合成電子伝達系の理解だけではなく、近年盛んに研究が行われている人工光合成系構築のための構造基盤に関して有益な情報を与える。光合成をおこなう生物は、光合成反応における酸素発生の有無によって大きく2つにわけることができる。これまでに酸素発生型RCはType1型、Type2型ともに構造決定がなされている。一方、非酸素発生型RCはType2型のRCのみ構造が解明されていた。そこで、本研究では非酸素発生型RC Type1型の高分解能での構造決定とその電子伝達経路の解明を目指した。 まず、構造を決定するために結晶化の最適化を行った。RCは膜タンパク質であるため、結晶化をする際に界面活性剤を用いた可溶化が必要となる。界面活性剤の種類によって結晶の質が異なるため、最適な界面活性剤の探索を行った。その結果、界面活性剤DDMまたはUDMを用いた際に大きな結晶を得られること、高分解能が得られることがわかった。それぞれの結晶系において、分子置換法を用いて初期位相を決定し、それぞれ3.2Åと4.2Åで構造を決定した。 次に、ESR法を用いてRCにおける時間分解測定を行った。溶液状態でのRCを14KでESRスペクトルを得た。そのスペクトルのシミュレーション解析から、P800+A0-ラジカル対間の交換相互作用Jはおよそ13 mTと見積もられた。これはType2型RCでのラジカル対と比較すると非常に大きな値をとることがわかった。さらに、結晶を用いてW-band ESR測定を行った。その結果、溶液状態と同じくP800の信号を得た。
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