本研究の目的は、戦前の外交官のキャリアパスを分析することを通じて、外務省内の派閥対立と政策対立との関係を明らかにすることである。 この目的を達成するために、平成29年度は、連盟外交をめぐってこれに消極的な本省と積極的な在欧の外交官グループとのあいだの政策志向の違いに注目し、これまでに収集した外交官の人事履歴の分析を進めた。具体的には、国際連盟帝国事務局長や同次長に就任する外交官のキャリアパスを分析し、その結果として、彼らが本省勤務では条約局を中心に、在外勤務では仏国を中心に欧州大陸に勤務しながら連盟外交に携わるといった特徴的なキャリアパターンを形成していることがわかった。また、こうしたキャリアパスの特徴を前年度に分析にした次官や局部長といった本省の幹部に就任する外交官のそれと比較した結果、両者の特徴はかなり異なるだけでなく、幹部に就任する外交官のキャリアパスのなかに連盟外交の経験などもほとんど見いだされないことから、彼らが省内において傍流に位置する存在であったことも明らかとなった。さらに、これらの分析結果と行政学の知見を踏まえて、連盟外交をめぐる本省と在欧の外交官グループとのあいだの政策志向の違いはキャリアパスの違いから生じるものとして説明できること、また同じキャリパスを辿る外交官のあいだでは政策志向が近くなり、一つの政策派閥として理解できることを指摘し、従来の欧米派やアジア派といった区分では捉えきれない在欧外交官グループの存在を「連盟派」として定義した。 以上の成果については、日本国際政治学会2017年度研究大会・分科会C-1において「外務省『連盟派』とその政策」と題する報告をおこない、これを公表した。そのなかで、連盟派の系譜に属する外交官の戦後の活動にも焦点を当てて、戦前における日本の連盟外交の経験が戦後外交に与えた影響の一端についても論じた。
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