複合性局所疼痛症候群(Complex Regional Pain Syndrome; CRPS)は、外傷や手術後に四肢の異常な痛みに加えて、浮腫、発汗異常など自律神経が関与すると思われる症状や、運動障害や萎縮性変化など、多彩な臨床症状を呈する慢性疼痛症候群であり、その治療においては個々の病態に応じた多面的なアプローチが重要となる。CRPSに伴う臨床症状の多くは脳機能の障害に起因すると考えられており、治療を有効に行うためにはその病態の解明と、客観的評価法の確立が必要である。resting-state fMRI(rs-fMRI)は安静時における脳活動を計測し、脳部位間の自発活動の同期性を評価する方法である。この脳部位間における自発活動の同期は、「機能的結合」と呼ばれ、すでに慢性腰痛や線維筋痛症患者を対象にした研究が行われ、病態解明への有用性が示されている。本研究ではまず、CRPS患者において日常生活動作に最も影響しQOL低下の大きな原因となる、運動機能障害の中枢機序の解明を目的として、上肢CRPS患者の感覚・運動ネットワークをrs-fMRIにより検討した。CRPS患者群では、健常対照群と比べて、左右の一次運動野および左右小脳の間の機能的結合がみられず、また補足運動野と左右の上頭頂葉や島との間の機能的結合もみられなかった。機能的結合の変化がみられた脳部位は,運動制御や体性感覚の処理に関係することから、この結果はCRPSにおける運動障害と関連し、rs-fMRIによる機能的結合の評価がCRPSの病態解明に有用である可能性を示すものである。
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