研究課題
平成28年度では、多核金属錯体の配位子の一部を脱離させ、欠損型構造へと導くため、固体状態の化合物に対して化学刺激を加える検討を行った。まず、含硫アミノ酸D-ペニシラミンとジホスフィンtrans-dppeeを含むチオラト架橋六核錯体[Au4Ni2(D-pen)4(trans-dppee)2]に対して過塩素酸を添加することにより、過塩素酸を固体中に包摂した結晶を合成した。この結晶に対して、化学刺激剤としてアンモニアを添加したところ、金属錯体の配位子部分は脱離せず、アンモニアが固体中の過塩素酸により中和されてしまうことが分かった。この中は反応は可逆であり、また単結晶を保持したまま進行する珍しい系であることが明らかになった。次に、金イオンに対して1.5当量のジホスフィンdppm(Bis(diphenylphosphino)methane)を反応させることにより、3つのdppmを架橋配位子として含むケージ型の金(I)二核錯体[Au2(dppm)3]2+を含む結晶性固体を合成した。この錯体の結晶を130度で加熱した所、金二核錯体構造を保ったまま3つのうち1つのジホスフィンが配位結合から外れ、欠損型錯体[Au2(dppm)2]2+を形成することが分かった。以上の結果から、欠損構造を形成するためには、加熱反応が有効であることが確認された。なお、上記金化合物は固体状態で発光量子収率がほぼ100%の極めて強い発光を示すことが明らかになっており、発光材料の観点からも興味深い結果であった。以上、本年度は欠損型構造を導く新たな手法を見出した。
3: やや遅れている
安定なチオラト単核錯体の合成とクラスター形成反応の合成は順調に進んでおり、数種の欠損型構造を含む化合物を得ることにも成功している。しかしながら、欠損型構造を含む生成物の同定と性質解明は完了しておらず、追求を継続する必要がある。
次年度は、これまでに観測している欠損部位をもつ金属クラスター錯体の単離および同定を急ぎ、それらの構造特性や反応性の調査を完了する。特に欠損部位と金属イオンあるいは金属ユニットとの反応調査を重点的に実施し、欠損型化合物の反応特性を早急に明らかにする。
本年度中に、欠損型クラスターを得るための有効な手法として、過剰のハロゲン化物イオンを用いる方法を見出した。子の方法により得られた数種の化合物の調査が完了していないため、本年度中の成果発表を次年度に持ち越すことにした。このため、予算の一部を次年度に繰り越すことになった。
前述の化合物について、反応性の調査のための経費と論文および学会発表のための経費として使用する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 謝辞記載あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件)
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