平成29年度では、多核金属クラスターカチオンに対して過剰な配位子を添加することにより、欠損型構造への誘導する合成戦略を検討した。 まず、アザキャップ型N3S3六座配位子(L)からなる硫黄架橋五核錯体カチオン[Co2Ag3(L)2]3+に対してヨードメタンを添加したところ、アザキャップ型配位子の3つのチオラト基のうち2つがメチル化された、コバルト単核錯体[Co(L-Me2)]2+が選択的に形成されることがわかった。この錯体は、チオラト基とチオエーテル基を併せ持つコバルト錯体の最初の例である。 次に、単純なアミノチオレート型配位子である2-aminoethanethiolate (aet)をもつ硫黄架橋八核クラスター錯体カチオン[Rh4Zn4O(aet)12]6+に対して、含硫アミノ酸の一種であるD-ペニシラミン(D-H2pen)を添加したところ、八核クラスター錯体カチオンからロジウム(III)イオンの一部が引き抜かれ、D-ペニシラミンが配位した、トリスチオラト型ロジウム(III)単核錯体アニオン([Rh(D-pen)3]3-)が生成することが明らかになった。さらに、生じた単核錯体と八核クラスター錯体が塩形成し、錯体同士のイオン結晶[Rh4Zn4O(aet)12][Rh(D-pen)3](NO3)3を形成することがわかった。興味深いことに、このイオン結晶中、八核クラスター錯体カチオンとロジウム(III)単核錯体アニオンはいずれもΛ型配置のロジウム(III)イオンから構成され、不斉選択的な反応が進行していることが明らかになった。 以上、本年度は硫黄架橋多核錯体に配位子の反応させることにより、非架橋チオラト基を有する少核数錯体へと誘導可能であることを明らかにした。
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