研究課題/領域番号 |
15K21132
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
伊熊 直彦 大阪大学, 工学研究科, 助教 (70505990)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | フラーレン / 軌道相互作用 / π共役分子 / イオン材料 / 自己集合性 / 分子軌道計算 |
研究実績の概要 |
研究2年目は、(1)トリアゾリウムフラーレンカチオン上の置換基が凝集挙動へ及ぼす影響の評価、 (2)インダンジオン骨格を有するフラーレン付加体の合成、(3)含窒素フラーレンの塩基性に着目した反応知見の蓄積、について行った。 1)については、初年度の研究から引き続いて種々の置換基導入を試みた。塩素および臭素の導入に成功し、NMRから高純度な生成物を得ることに成功した。電子顕微鏡観察を行ったところ円形(あるいは球形)の整然とした凝集状態が観察され、ハロゲン相互作用の凝集挙動への関与を示唆した。初年度から引き続き長鎖アルコキシ基の導入も試みたが、単離精製手法に依然として課題があり、イオンクロマトグラフィーなどの単離法を探索中である。 2)については、カチオン性ペリ共役フラーレンとの比較のため、中性のペリ共役性フラーレンの合成を目指し、カルボニル基がフラーレン上に近接するインダンジオン骨格のフラーレンへの導入を検討した。インダンジオンのパイ共役系を拡張し、湾曲部位を設けることで、フラーレンとインダンジオン部がhead-to-tailで二量化し、フラーレンの電子状態に効率的に変化をもたらすことを期待した。前駆体を合成し、2位をジアゾ化し1,3-双極子付加反応によりフラーレンとの反応を試みている最中である。 3)については、フラーレンに隣接する窒素の立体電子効果を調べるため、窒素がフラーレン上のパイ電子と共役するアザフレロイドの反応性について評価を行った。窒素配位能を有するグリニャール試薬の反応では、トシル基のようなかさ高く脱離能に秀でた置換基では窒素開環を伴う付加生成物が得られたのに対し、アルキル基の場合は位置選択的付加体が得られた。分子軌道法の結果から窒素の塩基性はフラーレン表面上にはあまり影響を与えておらず、窒素とフラーレン炭素のねじれが共役を弱めているのが原因と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カチオン性ペリ共役フラーレンについては一部の置換基導入に成功し、電子顕微鏡観察など物性解析も進めている。一部の結果に関してフラーレン・ナノチューブ・グラフェンシンポジウムで発表し関連分野の研究者と意見交換した。一方で電子供与性置換基や強い電子求引性置換基は有機溶媒への溶解性が高く、カチオン性ペリ共役フラーレンでは単離精製に課題があるので、他の分子骨格を導入した中性ペリ共役フラーレンや、さらに研究対象を広げて窒素の孤立電子対のフラーレン共役系にあたえる影響に着目し、含窒素イミノフラーレンの研究も同時に進めている。前者の中性ペリ共役系についてはインダンジオン骨格を有するフラーレン、後者は窒素がフラーレン二重結合と共役するアザフレロイドに着目した。インダンジオンフラーレンの合成に予備的に成功し、アザフレロイドについては窒素塩基性評価のための有機金属反応を行い、その知見について論文投稿を行った。
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今後の研究の推進方策 |
トリアゾリウムフラーレンについては、置換基導入の困難を克服するため、量子化学計算を用いて導入可能な置換基探索と、生成物の物性予測を進める。カチオン状態でうまくいかない場合は、トリアゾリウム骨格を還元剤により中性トリアゾリジンに変換し、この状態での単離精製や、置換基変換ができないかを試みる。十分な純度の生成物が得られた場合は、電子顕微鏡観察やX線回折により生成物の自己集合特性の解析を行う。インダンジオンフラーレンについては合成法を確立し、カルボニル基がフラーレンの共役系に及ぼす影響と、固体状態の集合特性を明らかにする。アザフレロイドについては、窒素のフラーレン共役系に与える影響を量子化学的に評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は研究計画を一部変更し、中性分子であるインダンジオンフラーレンおよびアザフレロイドの研究を行ったため、当初予定額を少し上回る費用が生じたが、研究初年度の剰余金が十分あったので、次年度に繰り越せる研究費が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
当初計画で提案したトリアゾリウムフラーレンに加え、研究の変更で他のペリ共役性フラーレンについても取り扱うことになるので、これらの合成および分析のために研究費を充てる。量子化学計算により電子状態の考察を進めるため、計算機使用料やメンテナンス費が発生した場合はこれに充てる。
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