研究実績の概要 |
研究最終年度はこれまでの結果を受けて、(1)トリアゾリウムフラーレンカチオンの合成とその金属錯体の理論設計、 (2)湾曲性π共役部位のフラーレンへの導入と自己集合性制御、(3)フラーレンへの付加反応の理論計算による制御、について行った。 1)については、電子供与性および電子求引性置換基の導入および生成物の生成法の確立を試みた。さらに、窒素基の配位を利用したナイトレン金属錯体の構築を検討した。実際の合成までには至らなかったが、理論計算により高い配位エネルギーを有する金属を選択し新規フラーレン錯体の設計を試み、その電子特性について理論的に予測した。 2)については、フラーレンの自己集合制御の方法として、分子間ファンデルワールス力の増大を目指した湾曲性π共役分子のフラーレンへの導入を試みた。Buckycatcherのようなフラーレン表面と強く相互作用する部位をフラーレン自身に導入し、フラーレン同士の自己集合性を増大させることを試みた。その結果、置換基の種類や集合化条件によって固体状態でのモルフォロジー及び電子特性が大きく変化するフラーレン超分子を得ることに成功した。 3)については、1,2における大きな問題であった「フラーレンへの置換基導入における低収率および低い位置選択性」の克服のため、種々のフラーレン反応に対する反応性の定量的な評価と、高い選択性を実現する反応条件の探索を計算科学手法により行った。フラーレン誘導体の一種であるフレロイドは、大きくねじれたanti-Bredt二重結合を有しているため比較的位置選択性が高いと考えられる。そこで、この化合物のDiels-Alder反応の遷移状態計算を行い、反応過程のエネルギー変化を算出したところ、anti-Bredt二重結合の反応性が特異的に高いことが判明し、その反応性が基質によって左右されることを明らかにした。
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