研究課題
本研究は、システムLアミノ酸輸送体LAT1の高発現と様々ながん種の予後不良の相関から、LAT1/4F2hc-インテグリンを介するがん細胞特異的な生存機構という、栄養制御と接着分子との共役関係の解明を目的として実施した。本年度は、ボイデンチャンバーを用いたMigration assayにより、LAT1/4F2hc-インテグリンの特異的リガンド存在下における細胞の運動能力を評価した。各種接着分子を含有するマトリゲルをコートし、検討を行ったところ、LAT1の発現抑制株において、インテグリンαvβ3複合体の発現および細胞の浸潤能の低下が認められた。LAT1の抑制によりアポトーシスは誘導されなかったが、細胞周期の静止が認められた。LAT1の抑制とそれにともなうインテグリンの発現低下は、細胞増殖・生存機構に大きな影響を持つ事が確認された。In vivoの検討では、LAT1抑制株による腫瘍塊は親株に比べて明らかに縮小した。また、これらの現象は薬剤による抑制でも再現出来た。これらのことから、LAT1抑制による栄養飢餓とそれに伴うアミノ酸シグナル系mTORCの抑制、インテグリン発現低下による細胞運動・接着抑制が複合的に働いて腫瘍増大を抑制したと考えられる。一方で各種抗がん剤耐性株における検討では、様々ながん種でもLAT1/4F2hc-インテグリンの発現増強が認められ、抗がん剤耐性性にもLAT1が深く関与する可能性が認められた。がん特異的生存機構は、LAT1を入口とした複数の経路により制御されていることが示唆される。正常細胞が、がんに転化する機構を明らかにする事により、がん細胞特異的な増殖抑制や、がん細胞の消滅を目指した副作用の少ない薬物の創製が可能となる。本研究によりLAT-4F2hc-インテグリン複合体の抗がん薬耐性への関与、増殖能等、がん細胞の生存において果たす役割の一部が解明できた。
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