研究課題/領域番号 |
15K21143
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
西内 智彦 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (10706774)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | ひずみエネルギー / 非平面π骨格 / シクロオクタテトラエン / 反芳香族性 |
研究実績の概要 |
本研究では、非平面π骨格のひずみエネルギーの利用を提案し、その機能開拓を目指している。ベルト状やボウル状構造を持つ非平面π共役系は、通常平面構造である芳香環が非平面化する為に高いひずみエネルギーを内在するものの、それを利用した研究展開はされてこなかった。本研究における具体的な非平面π共役系のひずみエネルギーの利用法は、折れ曲がり構造を持つシクロオクタテトラエンに着目し、左右から引っ張るという非常にシンプルな方法で平面化、すなわち化合物の遷移状態およびそれに至る過程の構造を取り出す試みである。この試みは、遷移状態における分子の構造解明や電子物性の解明に大きく役立ち、π電子系化合物におけるひずみエネルギーの利用について一つの道筋を与えるものになると考えている。 初年度においては、その目的化合物としてイミド基を二つ有したシクロオクタテトラエン誘導体をデザインして合成を試みた。当初は、無水マレイン酸もしくはアセチレンジカルボン酸ジエステルと、フランをディールス・アルダー反応でカップリングさせた後、その化合物にアセチレンジカルボン酸ジエステルをNi触媒を用いて[2+2]環化反応で付加させて、シクロオクタテトラエン前駆体を合成することに成功した。しかしながら、その前駆体からシクロオクタテトラエンへ導く反応が予想通りに進行せず、異なる合成ルートの検討を強いられた。 別の合成ルートによる試みも、シクロオクタテトラエン前駆体までは合成できたものの、続く反応によるシクロオクタテトラエンの生成は現在までのところ確認できておらず、イミド基を二つ導入したシクロオクタテトラエンの安定性が低いのではないかと考えられる。 そこで、イミド基ではなくチオフェン骨格を有したシクロオクタテトラエン誘導体の合成を現在進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
初年度は目的分子の合成を目指し、まずはその母骨格となるイミド基を二つ導入したシクロオクタテトラエン誘導体の合成を二通りの異なるルートで試みたものの、現在までの所どちらのルートにおいても生成・単離に至っていない。その原因の一つとして、目的のシクロオクタテトラエン誘導体の反応性が申請者の予想よりも高く、反応途中で余計に反応してしまっていることが考えられる。 そこでイミド基ではなく、チオフェン骨格を二つ導入して類似の構造を有したシクロオクタテトラエン誘導体の合成も同時に進めているが、こちらも同様にまだ単離には至っていない。こちらの化合物においては、チオフェン骨格のアルファ位が無保護の状態で反応を進めていたため、途中のルイス酸条件下における反応でオリゴマー化の副反応が進行していることが考えられる。また、八員環を形成する反応自体の効率が悪く、このことも単離に至らない大きな原因の一つとなっている。
|
今後の研究の推進方策 |
上記のように未だ目的化合物の母骨格であるシクロオクタテトラエン誘導体の合成ができていないため、まずはその合成に注力する。 現状の打開策として、(1)当初の予定である、イミド基を有したシクロオクタテトラエン誘導体において、本当に反応性が問題なのか精査するために、反応試薬を変更して単離・精製できないかを試みる。(2)チオフェン骨格を有したシクロオクタテトラエン誘導体は、アルファ位の保護を行いオリゴマー化を防ぐと共に、八員環を形成する反応を変更して効率よく得ることができるよう改良を試みる。(3)シクロオクタテトラエン誘導体において、イミド基やチオフェン骨格以外の骨格を導入して研究目的が達成できないか再度検討し、別の候補の化合物の合成も試みる。 以上の打開策を展開して目的のシクロオクタテトラエン誘導体を合成し、物性評価を行う予定である。
|