研究課題/領域番号 |
15K21145
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田畑 博史 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (00462705)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | MoS2 / グラフェン / ヘテロ接合 / ショットキー障壁 / ガスセンサー |
研究実績の概要 |
原子数層分の厚みをもつ異なる種類の原子層薄膜を重ね合わせて形成するvan der Waals(vdW)ヘテロ構造は、原子層薄膜の組み合わせによって多様な界面を形成する。これらの界面は原子層薄膜の厚さを隔てて外気と近接しているため、界面の状態は外部の雰囲気によって大きく影響を受けると予想される。本研究の目的は、この原子層薄膜のvdWヘテロ接合構造における、吸着ガス分子の影響を電気伝導特性の変化から明らかにすること、そしてこのヘテロ接合界面を利用したガスセンサーの可能性を探索することである。 平成27年度は、グラフェンとMoS2のvdWヘテロ構造を研究対象とし、ヘテロ構造の形成およびデバイス化に取り組み、また、ヘテロ接合界面における電気伝導特性のガス吸着による影響を評価した。グラフェン/MoS2界面には、ゲート電圧によって障壁高さが変調される特殊なショットキー障壁が形成されることが知られている。これは、状態密度の小さなグラフェンは電界効果ドーピングによって仕事関数が容易に変化するからである。ガス分子吸着による化学ドーピングによっても同様に障壁高さの変調が起こりうると予想されるが、いまだ報告されていない。そこで、グラフェン/MoS2ヘテロ接合をチャネルに持つ電界効果トランジスタ(FET)型のデバイスを作製し、ガス曝露による電気伝導特性の変化を調べることによって、ガス吸着によるショットキー障壁変調の検証を行った。ヘテロ接合部分以外への吸着分子の影響を排除するため、ヘテロ接合部分以外の領域を段階的にガスバリア膜で被覆し、各段階における伝導特性の変化を系統的に調べた。酸化性ガスであるNO2を曝露すると、電流の大幅減少が観測され、ショットキー障壁高さの増加が確認された。さらに、応答に寄与する部分は、ヘテロ接合界面全体ではなくグラフェンエッジ部分のみであることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)当初の予定では、p型WSe2とn型MoS2の原子層薄膜によるvdWヘテロ構造によるpn接合界面を研究対象とする予定であっが、ヘテロ構造作製の歩留まりが低いため、バックアッププランとして予定していた、比較的入手が容易なグラフェンを用いて、グラフェン/MoS2 vdWヘテロ構造によるショットキー界面を研究対象とした。グラフェン/MoS2 vdWヘテロ構造は、機械的剥離で形成したMoS2薄片上にグラフェンを積み重ねることで作製した。再現性と信頼性のある界面特性を得るためにはできるだけ大面積のヘテロ接合が望ましいが、機械的剥離法で得られる原子層薄片のサイズの制限と、マスクレスフォトリソグラフィの位置制御の制約から、10 μm2以上の接合面積を有するヘテロ接合の形成を目指した。機械的剥離法の工夫による剥離MoS2の面積増大と、銅箔上単層グラフェンの転写により、約10 μm2の接合面積をもつヘテロ接合を比較的容易に形成することができるようになり、ヘテロ接合デバイスの作製が可能になった。 (2)研究室所有の超高真空電子ビーム蒸着装置に本年度の研究費で購入したロードロックチャンバーを増設し、蒸着チャンバーを大気開放することなしに試料交換が出来るように改造した。これにより、電極形成のための蒸着工程にかかる時間を半分以下に短縮することができ、デバイス作製の効率化を進めた。 (3)作製したデバイスは環境制御チャンバー内で、NO2ガスに対する応答評価を行い、予想したとおり、グラフェン/MoS2 vdWヘテロ接合界面に形成されるショットキー障壁の高さがガス分子吸着により増加することを実証した。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要で述べたグラフェン/MoS2ヘテロ接合界面のうちグラフェンエッジ部分しか応答に寄与していないという結果のさらなる裏付けを得るために、KFMマッピングや電流AFMなどの走査プローブ顕微鏡法を用いて、ヘテロ接合面内の表面ポテンシャル分布や電流経路を明らかにする。また、ヘテロ接合部のグラフェンに局所ドーピングを行うことにより、接合面内のショットキー障壁高さの分布を変化させ、ガス応答に寄与する領域の拡大を図る。 次に、ゲート電圧やバイアス電圧を変化させ、センサーの検知感度の制御や高速回復の可否について検証し、センサー特性の能動的制御の可能性を調査する。また、光照射下で光起電力や光応答電流を測定し、それぞれの物理量のガスに対する応答を調べ、光エネルギーを利用した無電源ガスセンサーの可能性を探索する。 また、ヘテロ接合形成のためのマイクロマニピュレータに改良を加え、歩留まりを向上させる。そして、当初予定していたWSe2/MoS2 vdWヘテロ構造によるpn接合界面のガス応答性についても同様に検証を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
ロードロックチェンバーの増設費用を所有していたジャンク部品を積極的に利用すること で節約できたため。
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次年度使用額の使用計画 |
ヘテロ接合デバイス作製のための材料費と国際会議の旅費・参加費に充てる。
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