研究課題/領域番号 |
15K21149
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
久山 雄甫 神戸大学, 人文学研究科, 准教授 (70723378)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ガイスト / ゲーテ |
研究実績の概要 |
主にゲーテのガイスト概念を究明しようとする本研究課題において、平成28年度には以下の3点について研究を進めた。 1)平成28年4月に神戸大学で開催された阪神ドイツ文学会研究発表会において、ゲーテの「現在」(Gegenwart)概念について口頭発表を行った。ゲーテにおいて「現在」概念はガイスト概念と複雑に連関しながら用いられており、この研究発表によって本研究課題の新しい切り口を得ることができた。この発表はさらに『ファウスト第二部』ヘレナ劇の解釈に重点をおきつつ論文化され『ドイツ文学論攷』第58号(2016)に所収された。 2)平成28年7月に「形態学と想像力――ゲーテのナマケモノ論における「詩的表現」の意味」と題した口頭発表を、名古屋大学で開催された日本独文学会東海支部の研究発表会で行った(招待講演)。この発表原稿を改稿して、同年11月に発行された学術雑誌『モルフォロギア』第38号に同題名の論文を発表した。ここではゲーテ形態学において想像力が占める重要な位置を確認した後、その想像力観が拠っているガイスト概念の性格を、ゲーテによるスイスの思想家トロクスラーの引用から紐解いた。結論として、ゲーテ形態学の基底には主体と客体に共通して「プネウマ」のはたらきを認める古代ギリシア的な生命観があることを示した。 3)上記二点に加えて、ゲーテ晩年の詩「一と全」においてみられる「世界ガイスト」と「世界ゼーレ」の概念について研究を進め、この両概念が従来言われてきたように互いに対立するのではなく、むしろ同じ系列に属するものとして考えられていた可能性を、19世紀初頭のドイツ語圏における古代哲学の受容の観点から明らかにしつつある。この研究成果は平成29年6月にドイツのヴァイマルで開催される国際ゲーテ協会で発表する予定である。(すでに発表申込を行い受理された。)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように平成28年度にはほぼ計画どおりの研究を遂行し、具体的な実績をあげることができた。なかでも、ゲーテの「現在」概念の解明に取り組むことで、『ファウスト第二部』におけるヘレナ劇との関連から新しい研究の切り口が見出せたことは特筆に価する。 平成27年度に計画していたゲーテ晩年の詩「一と全」研究については、当該年度に具体的な業績をあげることができなかったが、その後も研究を継続し内容を高度化させて、ゲーテ研究の世界最高峰である国際ゲーテ協会での発表を申し込み受理された。以上の経緯から、「一と全」についても、発表時期こそずれ込んだものの、研究自体は順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度において第一に重要な計画は、平成29年6月に行われる国際ゲーテ協会総会での口頭発表である。この総会では、発表後の質疑応答、その他のプログラムへの参加を通じて、今後の研究の推進に欠かせない知見を得られ、さらには国際的な人的ネットワークを構築することもできると思われる。 また、若きゲーテの神学論文および初期文学作品におけるガイスト概念の用法についても考察する必要があることが明らかになったので、平成29年度および30年度にはこのテーマについても研究を進め、予定されている単著の一部となるような論文の執筆を目指す。加えて時間的な余裕があれば、ゲーテにおけるアナロジー概念にまで研究範囲を広げて、研究内容を充実させていきたい。
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