研究実績の概要 |
高温メタン発酵槽(1% glucose,HRT10日,55℃)に、組換え遺伝子(gfp:緑色蛍光タンパク質)を恒常発現する酵母を投入することで、外来遺伝子が廃棄物処理を行う微生物群集へ水平伝播・環境拡散する可能性について検討を行った。組換え遺伝子の変遷を明らかにするため、酵母のゲノム中またはプラスミド中にgfpを保有する2種類の株を用い、それぞれの滅菌処理あり/なしの添加試験を30日ずつ、最後に30日間の非添加試験を実施した。 gfpを5つの領域に分割したPCRプライマーを作成し、それぞれの投入試験の1日目と30日目の発酵液から抽出した全ゲノムを鋳型としたPCR-ゲル電気泳動によって、組換え遺伝子の発酵槽中での残存を確認した。ゲノム組込み・プラスミド保持の酵母はすべてのプライマーの組み合わせでバンドが検出されたが、それらを滅菌処理(121℃, 20min)した後にバンドは消失した。そのため滅菌処理した菌液には、組換え遺伝子の水平伝播や拡散の可能性がないことが予測され、実際にメタン発酵槽に投入してもgfpの発酵液中での残存は解析期間中に確認されなかった。投入試験は、培地TOCに対して10%当量の酵母菌体をPBSに懸濁して1日1回、毎日添加したが、生菌を直接発酵液に投入した24時間後にはgfpは断片化しており、全長をPCR増幅できない状態になっていることが明らかになった。また、蛍光顕微鏡やFACSを用いた発酵液中のGFP蛍光の検出、投入後の発酵液のYPD培地での培養を試みたが、蛍光・菌体は全く検出されなかった。したがって、組換え遺伝子を保持する酵母の生菌をメタン発酵槽に投入して処理する場合、その遺伝子は直ちに分解され、環境中への拡散が起こらないことを示唆する結果を初めて明らかにすることができた。これらの結果とともに遺伝子組換え菌体を廃棄物として捉えた際の微生物群集構造の変遷についてNGSによる網羅的な結果を蓄積しつつ、これらの研究成果の論文化を進めている。
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