研究課題/領域番号 |
15K21151
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
丸山 佐和子 神戸大学, 経済学研究科, 准教授 (90584558)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 欧州連合 / 地域統合 / 欧州単一市場 / スウェーデン |
研究実績の概要 |
本研究の目的はスウェーデンの欧州単一市場への統合が企業活動に与えた影響を分析することである。平成28年度の主要な研究課題はスウェーデンとEU加盟国との貿易構造の変化について研究を行うことであった。28年度の研究は次のように実施した。 まず,スウェーデンの貿易全体の構造を国連のComtradeのデータを用いて分析し,全体的な傾向を把握した。貿易指標を用いて記述統計分析を行い,スウェーデンの貿易構造を明らかにした。さらに,当初予定していた付加価値貿易データベースの分析に替えて,近年注目されている貿易の外延・内延(extensive and intensive margin)の分析を行うこととした。より詳細な貿易データを用いてEU加盟国との貿易を実証的に分析した。 3月にはスウェーデンを訪問し,ヨーテボリ大学Handelshogskolanの地理学講座の研究会で貿易構造の分析結果について報告を行い,研究に対する助言を受けた。その結果,用いた貿易統計にはデータの性質上の問題点があり,データと分析手法を見直す必要があることが指摘された。これを受け,帰国後に代替可能なデータの検討を行った。また,スウェーデン訪問時には研究報告とあわせてヒアリング調査を行った。ヒアリング調査では関連機関(Svensk Naringsliv, Business Sweden, Vastra Gotalandsregionen)の担当者と面談し,スウェーデンおよび中東欧諸国のEU加盟後の企業活動の変化について意見交換を行った。 このほか,前年度の研究に基づき2本の論文を執筆した。スウェーデンのEU加盟に伴う国内の政策・制度の変更に注目した日本語論文は査読を経て学術雑誌に掲載された。さらに,このテーマを拡張し,スウェーデンのEU加盟の背景についてより詳細に述べた英文論文を執筆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
28年度の課題であったスウェーデンとEU加盟国との貿易構造の変化についての研究は当初計画から内容を変更して進めており,おおむね順調に進んでいる。28年度には大きく二つの分析を行った。第一の分析では,UN Comtradeの貿易データを用いてスウェーデンの全体的な貿易構造を分析し,さらに顕示比較優位係数や産業内貿易指数の計測により比較優位構造を明らかにした。これらの分析により,スウェーデンの貿易構造の特徴をつかみ,分析対象を絞り込むことが可能となった。第二の分析として,当初予定していた付加価値貿易データベースの分析に替えて,貿易の外延・内延の分析を行った。この分析によりスウェーデンのEU域内貿易の特徴,特に地域別の傾向の違いが明らかになった。一方で,貿易の外延・内延の分析を行うにはComtradeのデータには性質上の問題があることから,より詳細なデータベース(Eurostatの貿易データベース)を用いて精緻な分析を行う必要があることが明らかになった。Eurostatの貿易データベースを用いたこの分析作業は引き続き29年度に行う。
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今後の研究の推進方策 |
29年度は企業レベルのマイクロデータを用いてスウェーデン企業の立地戦略の変化に関する研究を行うことを予定していたが,貿易構造の分析でデータの見直したことにより新たな作業が必要であること,そして使用を予定していたスウェーデン統計局のマイクロデータの入手が困難であり使用を見合わせることから,以下のように研究計画を修正する。 29年度には前年度に引き続き,Eurostatの貿易データベースを用い,貿易の外延・内延を分析しEU域内貿易の構造変化を明らかにする。分析ではEU域内での貿易構造の変化に対するグローバル・バリューチェーンの形成や多国籍企業の立地戦略の影響について検証を行う。その際,スウェーデン企業の対外直接投資については,マクロ統計データに加え,企業データベースOrbisに収録されているスウェーデン企業のデータを活用する(データは前年度に入手済み)。 スウェーデン統計局のマイクロデータの入手を見合わせるのは以下の理由による。第一に,データの購入に十分な予算が確保できないことが挙げられる。第二に,データの利用にはEU域内からのアクセスが条件づけられており,長期に滞在し分析を行うための十分な予算が確保できないことが挙げられる。実際にマイクロデータを利用している研究者によると,統計解析ソフトも含めてクラウド上で作業を行うため,分析にはEU域内からのアクセスが欠かせないとのことであった。スウェーデン統計局のデータベースに代替するものとして,データベースOrbisのスウェーデン系企業データを確保しており,このデータを用いた分析を検討している。 上記の分析が一定進んだ段階で,分析結果の妥当性について議論するため,ヨーテボリ大学をはじめスウェーデンの研究者を訪問し研究報告を行うことを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
貿易統計データベースの整理作業は自ら行ったため,28年度中にリサーチ・アシスタントを雇用しなかった。このため,人件費・謝金で未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
引き続き貿易統計データベースの整理作業を29年度に実施することから,次年度使用額はそれらの作業でのリサーチ・アシスタントへの謝金として充てる予定である。
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