本研究の目的はスウェーデンの欧州単一市場への統合が企業活動に与えた影響を分析することである。平成30年度は29年度に引き続き,スウェーデンとEU加盟国との貿易構造の変化について研究を行った。 まず,29年度の分析をもとに,EU貿易統計作成方法に起因するデータの性質上の問題を論じた論文を執筆し,神戸大学紀要に掲載した。この論文では,EU加盟国同士の貿易統計とEU域外国との貿易統計は異なる方法で作成されているため,EUへの加盟に伴い貿易統計の連続性が失われ断層が生じることを指摘した。この断層を認識せずに分析を行った場合,貿易構造の変化がEU加盟のみによってもたらされたという誤った判断がなされる恐れがある。 また,29年度の分析に用いた貿易データにはデータ性質上の問題があることが明らかになったため,改めて分析対象期間を変更し,データベースを整理し直した。その上で,これまでの貿易の外延・内延(extensive and intensive margins)に関する分析に加え,近年注目されている貿易の耐久性(duration of trade)に関する分析を新たに行った。これらの分析により,スウェーデンは近隣諸国との間で貿易が生じやすく,また継続しやすいこと,さらに加盟から年を経るにつれて貿易がより長期に行われる傾向にあることなどが明らかになった。これらの分析結果を論文にまとめ,2019年3月に開催された国際経済学会関西支部定例研究会において報告を行った。報告内容に対して,欧州内の貿易の特徴をスウェーデンの視点から明らかにしたことが貢献として挙げられるというコメントが得られたほか,貿易の継続性や耐久性に対して影響を与える要因についてさらに分析する必要性があることが指摘された。
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