われわれはこれまで皮膚細胞における光受容機序について研究を展開してきた。現時点までに皮膚を構成する各細胞に通常は網膜に発現・機能しているとされる光受容タンパク質のうち、OPN4の発現を確認した。メラノサイトにおいても同様の初見が得られたが、これが腫瘍化したメラノーマでは、メラノサイトの性質を保持している可能性があり、光を受容することが細胞挙動に影響を及ぼす可能性を考えた。われわれの先行研究においてOPN4を介して変換された細胞内シグナルは細胞増殖系シグナルへと関連することを示しており、光照射によりメラノーマ細胞が増殖へと移行する可能性がある。 本研究課題では昨年度までにメラノーマ細胞(BRAF変異のある細胞株(G361)・変異のない細胞株(Mewo))におけるOPN4の発現およびそのセカンドメッセンジャーであるGnaqの共発現を免疫組織学的に、また分子生物学的に確認した。このことは、メラノーマ細胞が光をOPN4を介して受容し、Gタンパク質を介して細胞内シグナルへと変換していることを示唆する。網膜の細胞においてはOPN4が光により活性化した場合、細胞外からのカルシウムイオンの取り込みおよび小胞体からのカルシウムイオンの放出があることが示されている。本年度は実際に細胞内シグナルへと変換されているかを探るためにカルシウム指示薬を用いて、光照射による細胞内カルシウム濃度の変化を解析した。2系統のメラノーマ細胞を暗条件下で培養したのち、カルシウム指示薬(Fluo-4)を添加した。これに蛍光顕微鏡を用いてB励起光を照射し続け、カルシウムイオンの取り込みを経時的に観察した。このとき、B励起光はOPN4の感受性波長と相同である。その結果、青色光を照射することで約2分をピークにカルシウムイオンを取り込むことが明らかとなった。これはメラノーマ細胞が確かに光照射に反応することを示す。
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