本研究は,AEC発足による経済統合の見通しが広がる情勢を背景にして,ラオス-タイの国際労働力移動の様相を明らかにするものである。特に,インドシナ半島には大メコン圏と呼ばれる国際経済圏が構想される中,その中心的役割を果たそうとするタイに移動するラオス人労働者に関わる労働市場の変化を明らかにすることは,東南アジアにおける経済統合の将来を見通す際に必須である。 今年度は,昨年度に延長申請した部分の研究に従事した。これはすなわち,平成28年度に実施した学会報告を元にした論文の執筆である。その主立った特徴は,以下の通りである。 東北タイを地方圏の代表としてノーンカーイ県とウドーンターニー県を調査事例地に,ラオス人労働者の就労実態を調査したデータを分析した。国境周辺地域の地方都市においてもバンコクと同様の特徴がみられる。具体的にいえば,労働集約的な中小零細企業で就労するケースの多いラオス人は,それでもタイの最低賃金を上回る給与を得ており,少なくともフォーマル・セクターで就労するラオス人は経済的な豊かさを獲得できていると考えられる。それはまた,ラオスに暮らす家族への多額の送金に反映されている。そしてその送金の手段は,人の手を介したものが主で,そのためラオス人労働者も頻繁に国境を行き来している。国境を挟んで居住地と就労地が近接していることがこのような移動を形成する背景となっている。このような特徴は二国間の所得格差という経済的な人口移動モデルに当てはまるだけでなく,二国間の労働者の送受システムに支えられたTransnational Migrationの人口移動モデルとして捉えることもできる。
|