研究課題/領域番号 |
15K21160
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研究機関 | 神戸女学院大学 |
研究代表者 |
小坂 美保 神戸女学院大学, 体育研究室, 専任講師 (50409710)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 公園 / 身体 / 近代化 / 都市 / 運動空間 |
研究実績の概要 |
今年度は,日比谷公園に運動器具・器械を建設・寄付した民間団体である「日本体育会」について資料収集,分析を行う予定であった。しかし,研究を進めていく上で,まずは「なぜ運動場が園内施設として設置されたのか」を明らかにする必要性がでてきた。そのため,日比谷公園の開設決定において,都市衛生面からの必要性,都市環境(市街地のオープンスペース確保)の整備という都市計画上の要因があったことを踏まえ,日比谷公園の「運動場」について検討を進めていくこととした。日比谷公園の大きな特徴は,運動空間としての機能が付与されていたことである。これは,設計案の段階から,園内施設として整備されることが決まっていた。この運動場は,ドイツの公園をモデルとしているといわれている。日本においては,公園制度開始当初からの公園の機能(役割)は「都市の肺臓」であった。しかし,都市の近代化にともない機能は分化し,また日本の公園においてはそのモデルとする公園の違いによって(ヨーロッパ的か,19世紀後半からのアメリカでのプレイグラウンド運動の影響か,等)公園の形態も異なるものとして発達してきた。特に運動場という運動空間を具える公園については,公園設置者の意図とともに,公園の利用者の目的が明確に変化してきたことがうかがえる。というのは,運動空間としての機能は,利用者のより積極的な「健康」の享受が可能となるからである。また,今年度収集した資料に,公園への運動場の設置や運動器械・器具の設置は体育(学校体育)の発達の影響があると指摘されている。この点について,これまで学校(体育)と公園の関係をうかがわせる資料がなく,類似しているが別々の発達の仕方をしてきたととらえていたため,再度,学校と公園の関係を含めて運動空間としての公園について検討を加えていく必要性が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
日比谷公園の運動場を含め,日本の近代都市公園における運動空間論の系譜として,運動空間としての公園の意義について学会発表および論文作成を試みていた。しかし,関連資料の収集が追い付かず,仮説的な概要を示すことにとどまってしまった。また,運動空間を有する日比谷公園を人びとがどのように受容していたのかを,新聞記事,雑誌,小説,ポスター(絵,錦絵等)を通して読み解こうとした。その際,運動を行っている主体の多くが男性であり,女性が公園で運動している姿が描かれておらず,積極的に運動空間としての機能を享受する男性とそうではない女性にどのような違いがあるのかについても研究対象とすることとした。そして,今年度は日比谷公園が描かれたポスターを対象に,そこに描かれた人びとがどのように公園で過ごしていたのかを特に女性に焦点をあてて論じるにとどまってしまった。 あわせて,本年度異動に伴い,研究に費やす時間の確保が難しく,当初予定の研究計画通りに研究を進めることが難しかった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として,「日本の近代都市公園における運動空間論の系譜」というテーマでの論文を完成させる。必要資料の方向性も定まり,現在,資料収集がほぼ終わり,分析に取り組み始めている所である。そのなかで,これまで学校(体育)と公園との関係を明確にする資料がなく,運動空間の形成過程において学校(体育)を切り離して論を進めてきたが,今回,関連を示す資料を得たことにより,明治・大正期の体育の発達の影響が運動を可能とする公園の設立にどのように影響したのかについて明らかにしていく。また,日比谷公園の設計者である本多静六や設計を進めた東京市区改正委員会の議事録等の資料を丹念にあたり,運動場設置にどのような意図があったのかを明らかにしていく。その作業を通しながら,人びとがどのように公園を受容し,そこでの身体の有り様がどのように変化してきたかのか考えていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際学会での発表を予定していたが,実行できなかったため,発表原稿等の翻訳作業への謝金が発生しなかったから。また,海外の大学での研究会での研究発表を2017年3月に行う予定であったが,インフルエンザに罹患したため,渡航できず発表が行えなかったため。 発表予定演題:「日本の近代都市公園における運動空間論の系譜」 香港・日本スポーツ身体文化研究会(2017/03/08),中文大学(中文大学日本研究学科主催の研究シリーズ [Comparative Asian Research Network]として開催)
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次年度使用額の使用計画 |
2017年度に行われる国際学会での発表を予定している。(The 25th TAFISA World Congress Seoul,2017/11/15-19)。 また,今年度収集できなかった資料収集(日本体育大学図書館所蔵の雑誌『体育』)を行うための史料複写費,交通費に使用する予定である。
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