研究課題/領域番号 |
15K21162
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
片岡 悠美子 奈良女子大学, 自然科学系, 助教 (00532194)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 希土類錯体 / 発光センサー / 発光プローブ / 発光特性 |
研究実績の概要 |
本研究では、特に細胞などの水溶液系や界面領域で、標的となる特定の基質分子を選択的に検出するための“発光センサー”の開発を目的として、発光プローブとなる発光性希土類錯体の分子内に多点的な基質分子認識能を有する有機配位子を新規合成し、それらの希土類錯体を用いて、基質分子に対する発光センシング機能の評価を行った。本研究で期間内に実施する具体的な研究項目を以下に示す。 a) 水系で強発光性を示す希土類錯体の開発と多点的な基質分子認識部位の導入 b) アルカリ金属イオン分子認識とカチオン・アニオン(NaCl, KCl)マルチセンシング c) 糖分子(D-グルコース、D-ガラクトース)に対する多点分子認識能の発現 研究初年である昨年度は、主にa)について実施し、カチオン基質とアニオン基質の2つの分子認識部位を導入した新規強発光性希土類錯体の開発に成功した。そこで2年目となる当該年度は、特にb)について実施し、カチオン基質となるアルカリ金属イオンとアニオン基質である塩化物イオンからなる無機イオンペアに対するイオンサイズ選択的な発光センシングを検討した。その結果、特にNaCl基質に対して高感度・高選択的なセンシング機能を有する発光性希土類錯体の開発に成功した。これらの研究成果は、これまで国際学会および国内学会にて報告済みである。希土類錯体による“発光センサー”は、標的とする基質分子を有機蛍光体などには見られない希土類固有の光情報として検出できるとこから、より鋭敏で、高感度・高選択的な発光センサーとして注目されている。さらにアルカリ金属イオンや糖分子は体内での代謝や情報伝達、疾患の診断などに重要な役割を果たしており、それらの“発光センサー”は非常に重要である。来年度からはc)についても検討をスタートさせ引き続き発光性希土類錯体による水系での優れた“発光センサー”を開発していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度に実施した研究項目である b)アルカリ金属イオン分子認識とカチオン・アニオン(NaCl, KCl)マルチセンシングについては、昨年度の研究項目である a)水系で強発光性を示す希土類錯体の開発と多点的な基質分子認識部位の導入で、新規に開発に成功した強発光性希土類錯体を用いて実験を行った。マイクロMレベルの希薄溶液中でカチオン基質であるアルカリ金属イオンやアニオン基質となるハロゲン化物イオンに対する希土類発光応答性を検討した。 アルカリ金属イオンの認識では、カチオンサイズ選択的な発光応答性を、ハロゲン化物イオンに対しては希土類錯体へのアニオン基質の配位による発光応答性をそれぞれ検討した。その結果、特にナトリウムイオンと塩化物イオンにおいて顕著な発光増大が観測された。そこでカチオン種とアニオン種を同時に添加したところ、特にNaClの組み合わせにおいてテルビウム錯体とユウロピウム錯体に非常に強い発光応答を示すことが見出された。他の組み合わせにおいては、顕著な発光増大が観測されなかったことから、特定の無機イオン対から成るアニオン基質とアニオン基質の組み合わせに対するマルチイオンセンシングが達成された。 これら得られた研究結果の進捗状況は、研究計画申請時の予定とおおむね一致している。従って、研究は現在のところ順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は b)の項目について引き続き、検討を行うとともに、来年度は c)の項目をメインとした研究を行う予定である。糖分子(D-グルコース、D-ガラクトース)に対して発光応答性を示す発光センサーを開発するため、希土類錯体の配位子内に糖分子認識のための部位を複数導入し、希土類錯体による糖基質分子の多点認識を実現する。糖分子との立体・位置選択的な会合体を形成させ、その発光応答性を検討する。 引き続き多点認識によって水溶液中で優れた発光センシング機能を有する希土類錯体を開発する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度に未使用額が発生したため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度請求する助成金と合わせて、有機合成のための試薬やガラス器具の購入や発光測定のための蛍光セルの購入など、主に消耗品購入のための物品費として充てる予定。
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