研究課題
本研究では、近年急速に注目されている有機熱電変換材料に関して、以前より報告している巨大なゼーベック係数の発現機構の解明を指向した計算化学的研究を実施し、実験的研究から得た結果との突き合わせを行う。本年度は分子形状の異なる種々の分子についてゼーベック測定を行い、正方形型のベンゾポルフィリンや球体のフラーレンで10~100 mV/K前後の巨大ゼーベック係数を観測した。長方形型平板状分子については、分子長軸/短軸アスペクト比の大きなペンタセンではほぼ同等の巨大ゼーベック効果が見られたのに対し、アスペクト比のやや小さいペリレンビスイミド類縁体では平凡な値に留まった。GIXD測定から、ペリレンビスイミド薄膜は基板に対し平行配向が優勢であることが示唆されたため、分子配向の影響について調べたところ、基板処理により分子配向を制御したベンゾポルフィリン試料薄膜では、巨大ゼーベック係数の発現温度がシフトする様子が見られた。また、GIXD測定の温度依存性から、一様な熱膨張のほかに、物質ごとに特定の温度域で格子定数が繊細に変化する様子が観測された。このことから温度変化による分子構造の微小な変調が、巨大ゼーベック係数の発現と何らかの関わりを示すことが示唆された。分子内部の構造変化が巨大ゼーベック係数に影響している可能性について考察するため、DFT計算を用いて、各分子の荷電に伴う安定化構造の変化を基に振電相互作用を評価した。その結果、巨大ゼーベック係数を示した化合物では比較的低エネルギーな基準振動が特徴的に表れることがわかった。これらの基準振動はいずれもπ共役面内の伸縮モードであり、電子状態への変調が比較的大きいと考えられる。これにより、分子内振動が局在フォノンとしてゼーベック特性に寄与する可能性が浮上した。
2: おおむね順調に進展している
実験的研究から分子配向の影響や分子形状によって巨大ゼーベック効果発現の有無が見出されたため、分子構造に基づく振電相互作用の評価を目的としたDFT計算を優先的に行った。これにより巨大ゼーベック効果の発現要因の解明に迫る有益な知見がこれまでに得られつつある。また、当初計画で主軸に位置付けていたMD計算に関しても並行して行っており、当初予定していたアプローチはいずれも次年度に実施する予定である。異なる計算手法により得られた結果を互いに突き合わせることで、より詳細な考察を行う。
すでに幾つかの化合物でGIXD測定の結果が得られているため、引き続きMD計算を行い、モデリングの妥当性と熱伝導率およびトランスファー積分の評価を行う予定である。さしあたり、Green-Kubo公式を用いた平衡熱力学計算のほか、モデリングした分子集合体モデルに温度差をかけて安定化させることで熱伝導率を算出する非平衡熱力学計算についても検討を行っている。いずれもモデルのサイズ効果や適切な温度差の設定など、複数のパラメータの最適化が必要であるが、異なった計算化学的手法により熱伝導率を算出できることは妥当性を評価する上で有用であると考えられる。また、分子間にはたらく振電相互作用の影響を調べるため、2分子モデルを構築し、種々の透過係数の評価を行うことも視野に入れる。
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Appl. Phys. Express
巻: 8 ページ: 121301
10.7567/APEX.8.121301