研究課題/領域番号 |
15K21163
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
小島 広孝 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 助教 (70713634)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ゼーベック効果 / 熱電変換 / 廃熱利用 / 再生可能エネルギー / 分子動力学計算 / 格子熱伝導率 |
研究実績の概要 |
本研究では、近年急速に注目されている有機熱電変換材料に関して、以前より報告している巨大なゼーベック係数の発現機構の解明を指向した計算化学的研究を実施し、実験的研究から得た結果との突き合わせを行う。 本年度は巨大ゼーベック効果を示す球体分子フラーレンの部分構造を有するスマネン薄膜について熱電計測を行った。その結果、フラーレンと同様に、最大30 mV/Kの巨大なゼーベック係数が観測された。フラーレンとスマネンは対称性こそ異なるものの、π電子共役系が歪んでいる点では共通している。しかしながら、両者の巨大ゼーベック効果の発現機構は大きく異なっている。また、本研究では分子動力学計算により、フラーレンとスマネンについて格子熱伝導率をそれぞれ計算した。フラーレン分子は対称性が高く、結晶構造およびアモルファス構造において比較的小さな熱伝導率が得られた。これは球状分子であるフラーレンが固体中で並進および回転運動をすることで、熱の散逸に寄与しているためと考えられる。一方のスマネンでは、アモルファス構造と比較して大きな熱伝導率が結晶構造において算出された。アモルファス構造では分子間に空隙があるため、主に並進運動によって熱の散逸が生じるのに対し、結晶構造では分子同士が密に接しているために熱伝導しやすい条件になっていると考えられる。さらに、熱伝導率の方向依存性を調べたところ、電気伝導が起こりやすい分子スタック方向ではむしろ熱伝導率が低下しており、side-by-sideの分子間相互作用が熱伝導に影響していることが示唆された。これにより電気伝導方向と熱伝導方向の不一致が生じ、熱電材料として有利な、導電率と熱伝導の独立制御に有望な材料である可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験的研究からフラーレンとその部分構造をもつスマネンの両方で巨大ゼーベック効果が観測され、分子形状や対称性による違いが影響している疑いが見出された。電気伝導に関しては実験および理論計算などの報告がなされていたが、熱伝導に関する知見はこれまで詳細には調べられていなかった。そこで、分子動力学計算を用いた熱伝導の算出を行った。これにより、スマネンでは電気伝導と熱伝導の関係が特異的な条件を満たしていることが示唆され、巨大ゼーベック効果の発現機構としても有望な可能性の一つであることが考えられる。同様のアプローチは他の材料系においても転用可能であり、種々の化合物群における熱電特性の一般性を評価することができると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究から、分子内振動および分子間相互作用が熱電現象に具体的に寄与している疑いが強まってきている。今後のアプローチとして、より詳細な知見を得るために、両者を統合する計算化学的考察が必要であると考えており、まずは結晶構造におけるフォノンバンド計算を実施する予定である。これにより、分子内での振動が隣接分子に伝播する様子を解析することで、例えば伝播しやすい基準振動モードを特定することにより、分子の対称性等を反映した物性評価ができると考えられる。これらの手法を種々の化合物に関して適用することで、これまでに研究を進めてきた現象理解に関する一般性や特異性についても考察する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進捗状況から、当初予定していたハードウェアへの設備投資ではなく、フォノンバンド計算を目的として輸送特性シミュレーションソフトウェアであるAtomistix ToolKit (ATK)の購入する予定を立てていたが、DFT計算ベースでの計算では所望の結果を得るためのコストがかかりすぎることから、スパコン等を用いた別の計算手法によるアプローチを検討していたため、一旦購入を見合わせていた。また、研究代表者が現職に着任した際に、所属機関より新任教員に対する研究支援を目的とした研究費支援が得られたため、その他の経費の一部をそちらから支出した。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の理由の通り、ATKの購入を一旦見合わせていたが、他の研究者等とも調整を重ねた結果、現環境での計算条件においても十分に有益な結果が得られることが判断されたため、平成29年度中にATKの導入を行う予定である。
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