研究課題
本研究では、近年急速に注目されている有機熱電変換材料に関して、以前より報告している巨大なゼーベック係数の発現機構の解明を指向した計算化学的研究を実施し、実験的研究から得た結果との突き合わせを行った。実験的研究では、分子形状の異なる種々の分子についてゼーベック測定を行い、平板状のベンゾポルフィリンや、ペンタセンでは10～100 mV/K前後の巨大ゼーベック係数が観測された。一方、基板に対して平行配向が優勢を示すペリレンビスイミド類縁体では平凡な値に留まった。そこで、基板処理により分子配向を垂直配向に制御したところ、同温度域での巨大ゼーベック係数は消失し、その発現温度が高温側にシフトする様子が見られた。また、湾曲したπ共役系をもつ球状分子のフラーレンと、その部分構造を有するスマネンに関してゼーベック測定を行ったところ、いずれも10～100 mV/K前後の巨大ゼーベック係数が観測された。分子動力学シミュレーションを用いて両者の格子熱伝導率を算出したところ、いずれも導電方向に比較的低い熱伝導率が得られた。球状のフラーレンでは、固体中で並進および回転運動しており、熱の散逸により低熱伝導率となったと考えられる。スマネンは、結晶構造において大きな異方性を示し、通常は高熱伝導となる分子スタック方向にむしろ熱伝導率が低下した。これにより熱流のホッピング速度が電荷のホッピング速度のオーダーと概ね一致し、時間的・空間的な熱流と電流とのカップリングにより、巨大ゼーベック効果が誘起されている可能性が示唆された。また、荷電時には分子内部の構造が変化し、π共役系にも比較的大きな変調を与える可能性がDFT計算を用いて行った振電結合の解析によって示唆されている。これらの状況証拠を複合的に鑑み、温度差によって電気的性質が変化し、これが構造変調にも波及することで、複雑な物理現象が発現していると予測した。
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Chemistry Letters
巻: 47 ページ: 524-527
10.1246/cl.171210
Materials Chemistry Frontiers
巻: 2 ページ: -
10.1039/C7QM00596B
