研究課題
近年、生体光イメージング技術や光応答性薬剤の進歩により、生体組織を細胞レベルでセンシング・治療する手段が登場し、診断・治療を一体化する新たな医療技術としての応用が注目されている。本研究では、生体内での光センシング・光治療一体化システムの実現を目指し、生体内留置可能なバイオ光学素子と埋植型フォトニックLSIデバイスの開発を目的としている。本年度は、生体内で光導波路となるバイオ光学素子の開発を進めた。生体内で光を伝搬する光学素子として、既存のガラス製及びプラスチック製の光ファイバやレンズ等の光学素子を生体内に留置すると、生体の炎症反応の誘発が避けられない。ハイドロゲルは、柔軟性や生体適合性を有し、生体組織とのインターフェイスとして非常に有用な材料の一つである。そこで、ハイドロゲルの光学特性に着目し、生体親和性の高いハイドロゲルを材料とした生体内に留置可能な光導波路を開発した。これまで、ハイドロゲルは脆くて弱く、光学デバイスの部材としてハンドリングが難しいことが課題であったが、優れた機械的強度及び光学特性を有し、壊れにくくハンドリングが容易なハイドロゲル製光導波路が作製された。さらに、ハイドロゲル製光導波路を生体内への留置した状態を模擬したモデル実験において、ハイドロゲル製光導波路内を光が伝搬可能であることが確認された。本技術は、光が届きにくい生体内深部で光を操作(照射・伝送・検出)するための技術として、光を利用したバイオメディカルデバイス分野への応用が期待される。
2: おおむね順調に進展している
ハイドロゲル材料を用いた光学素子の開発では、ハイドロゲルの生化学的な特性だけではなく光学特性が重要となる。そこで、アガロースゲルと Tetra-poly (ethylene glycol) (Tetra-PEG) gelについて検討した。アガロースゲルとTetra-PEG gelについて、波長域350-850 nmでの光の減衰率を測定した。その結果、Agaroseゲルの減衰率は0.20-3.23 dB/mmであったのに対し、Tetra-PEGゲルの減衰率は0.01-0.07 dB/mmと低い値を示したことから、光導波路のためのハイドロゲル材料として、高光透過性を有するtetra-PEG gelの有用性が示唆された。次に、Tetra-PEG gelをファイバー形状に加工し、生体内で光を伝送するための光導波路とした。直径の異なるファイバ(直径: 0.5-3.0 um)の加工が可能であった。試作した光ファイバーに光を入射させたところ、ハイドロゲル製の光ファイバー内での光の伝搬が確認された。さらに、作製したハイドロゲル製光ファイバーを生体内への埋植した状態を模擬したモデル実験にいても、光を伝搬可能であることが確認された。よって、当初の計画通り順調に進展している。
これまでの検討より、生体内で光を導波させるためのバイオ光学素子として、生体親和性の高いハイドロゲル材料で作製した光導波路を開発した。今後は、バイオ光学素子であるハイドロゲル製光導波路を実装したフォトニックLSIデバイスを生体内に埋植し、生体内での光伝送の原理実証を進める。生体内埋め込みデバイス特有の課題の一つとして、生体の動きによるデバイスの位置ずれがある。特に生体内の光伝送においては、光源と光ファイバーの位置ずれによりカップリング効率が低下することが予想される。そこで、光伝送時のカップリング効率の安定化を図るために、ハイドロゲル製光導波路と光源マイクロLEDの固定方法について検討し、生体内での安定した光伝送技術の構築を目指す。
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