初めに既存のラマン分光装置に装置横向き対物レンズアダプタ,精密XYZステージおよび3極式ラマンセルを導入しその場ラマン測定系を完成させた.室温において結晶質Si (c-Si)が電気化学的にLiと合金化する場合,非晶質なLi-Si合金 (a-LixSi)相を形成した後に結晶性の高いc-Li15Si4相を形成する.当グループ独自の電極作製法であるガスデポジション法により作製したケイ素 (Si)単独電極を用いてSiのその場ラマンスペクトルを測定した.充電にともないc-Siの格子振動に由来する520 cm-1付近のピークが減少したが,a-LixSiやc-Li15Si4に由来する新たなピークは確認できなかった.Li-Si合金相のピークが検出されないのは,これらの相のピーク強度が低いため,あるいは生成量が少ないためであると考えられた.そこで対物レンズの倍率を50倍から100倍に変更し,かつ活物質量を増やすために塗布電極を用いて検討を行ったが,同様の結果しか得られなかった.したがって,c-Si相からa-LixSi相およびc-Li15Si4相への相変化をその場ラマン分光測定により追跡するのは困難であると結論した. 電極電位を初期電位で保持すると低波数側にピークが観測された.c-Siは充放電後にアモルファス化して490 cm-1に非晶質Si (a-Si)に由来するピークが観測される.そこで,この現象を利用してSi電極表面とLiとの反応分布を調べた.その結果,有機電解液中ではLiと未反応のSiが偏在しており,電極活物質層へのLi吸蔵が均一に進行しないことがわかった.他方,イオン液体電解液中ではa-SiつまりLiと反応したSiが均一に分布しており,SiへのLi吸蔵が電極表面全体で一様に起きることが明らかとなった.このような結果は100μm四方の広い範囲において定量的に確認できた.
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