研究課題/領域番号 |
15K21169
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
小泉 元宏 鳥取大学, 地域学部, 准教授 (60625234)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アート / アートプロジェクト / 協働 / 参加 / 地域社会 / 文化運動 / 創造都市 |
研究実績の概要 |
本研究は、地域活性化を目的としたアートプロジェクト(AP)が近年、各地で顕著に増加する傾向を鑑み、 APが地域社会の文化的・社会的活動に及ぼす影響を実証的に明らかにすることを目的としている。 今年度は、アーティストやデザイナーらが中心となり社会的企業を立ち上げ、比較的小規模な文化的・社会的活動を継続的に進めている「うかぶLLC」(鳥取県東伯郡湯梨浜町)や、対照事例として、鳥取県が中心となり比較的大規模な芸術家誘致策などの活動を進める「鳥取藝住祭」などを対象としながら、APが地域社会に与える影響を、聞き取り調査などフィールドワークを中心とした方法論によって調査・分析してきた。その結果、APが地域社会の成員に与える様々な変化が観察された。例えば、うかぶLLCが実施する、シェアハウス、ゲストハウス、カフェなどを併設した滞在スペース「たみ」の諸活動を契機に、周辺住民が新たな文化的・社会的活動を始めたり、来訪者が移住して新しい活動を始めたり、といった形で、APを契機に、各市民が自身の経験や知識を生かしつつ、各々異なる新たな文化・社会的活動を起こしていることが示された。 以上の結果は、都市や国家の経済成長を目指し、特に、創造階級と呼ばれる一部の人々に限定化・焦点化した理論構築が図られ、あるいは彼らの誘致を主眼とした政策が世界各地で行われつつある現状において、市民が潜在的に持つ創造性の重要性を示唆するとともに、市民の創造性をAPが引き出しうることを示唆する。本研究成果は、その示唆の重要性から、本年度、複数回にわたり、国際会議などにおいて招聘講演を依頼されており、当該領域が、国際的な関心を集めていることが伺える。ゆえに来年度以降は、今後の調査内容も踏まえつつ、国内のみならず、国際共著書の執筆など国際発信も視野に入れながら、研究成果の発表を進めていく所存である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、調査研究については概ね想定していた通りの進捗状況であるが、特に成果発表(および、それに向けた見通し)の点で想定以上の成果を上げているものと考える。その主たる理由は、国内外からの創造性を用いた国家政策や都市・地域政策に対する関心の高まり(及び、それらへの批判)による。特に我が国においては、少子高齢化や人口減少といった社会要因に加え、2020年の東京オリンピックを契機に、文化事業を国全体で振興していこうとする動きが、各所で強まりを見せている。そのような中で、国内のみならず、各国から、我が国の文化をめぐる政治状況が注目を集めている。このような中で、本研究の意義が相対的に高まっていることが、成果発表への期待となっていると考えられる。ゆえに次年度以降は、調査研究を踏まえた成果発表の点もより重視していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
上述したように今年度の調査においては、特に地域社会におけるアートプロジェクトに関する研究を進めることができ、ひとまずの研究報告および分析考察も行うことができた。今後は特に、それらの対比も念頭に置きながら、都市社会におけるアートプロジェクトが、いかなる文化・社会的影響を、他の主体に及ぼしているのか検討することを重視していきたい。むろん、分析にあたっては、人やモノがかつて以上に行き交うグローバル化の進展と、それを阻害するものなどへのまなざしなど、都市・地域社会問わず共有する社会背景や社会構造の検討も必須であろう。単に地域社会における事例との比較検討を行うのみならず、それらの背後に通底する社会状況や社会構造の課題を、グローバル社会学的な視座から捉えることも重視しつつ、分析・考察していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
招待講演による旅費の削減や、学内経費の使用などによって、予定額からの余りが生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度以降は調査研究、ならびに研究成果発表のための支出で、旅費・その他の支出が増加することが見込まれる。ゆえに、それらの経費に対して使用することとする。
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