研究実績の概要 |
二つの四重極と反応セル (CRC) を持つトリプル四重極型ICP-MS/MSではイオウ ( S ) のスペクトル干渉を除くことができるため,S同位体比 (34S/32S) を測定することが可能であると期待される.一般的に,ICP-MSで同位体比測定を行う場合は,空間電荷効果の補正が必要とされる.さらにICP-MS/MSでSをSOとして測定する場合には,SとO2の反応による質量差別効果および酸素との衝突による質量差別効果を補正する必要があると考えられる. SとO2の反応性を調べたところ,O2との反応による質量差別効果は無視できると考えられた.内部標準物質としてはガリウム (Ga)が最適であり,Gaを用いて空間電荷効果と酸素との衝突による質量差別効果を補正することでS同位体比を測定できた. さらに,高感度試料導入システム (apex-Q, Elemental Scientific Inc.),ガス交換器,ICP-MS/MS等を組合せてPM2.5に含まれる金属をリアルタイムに分析可能なシステムを構築した.この分析システムの性能を評価するため,排出源が特定できかつ短時間での濃度変化が期待される喫煙所から排出される副流煙に含まれている金属の評価に用いた.その結果, 喫煙者数の増加や銘柄間による金属排出量の相違が観察できた. 10月からはマルチノズルカスケードインパクターサンプラー (MCI-20-1025, 東京Dylec) を用いて粒子状物質を分級捕集した.混酸による高温分解した試料をICP-MS/MSを用いて66元素の定量を行った.2014年より開始した大気降下物の解析結果も合わせてクラスター解析を行ったところ,自然起源と人為起源に元素を分けることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
S同位体比測定における新たな補正方法を検討するためにSとO2の反応性を調べたところ,O2の流量0.34 ml/minの条件下では、CRC内においてSは不確かさの範囲内で100 %酸化物になっていた.この結果から、CRCでのSとO2との結合に由来するSの同位体分別は考えなくてよいと考察した.一方,Gaの酸化物生成比は0であり,O2との反応による同位体分別はないと考えられるため、内標準物質として適していると考えられた.最適な分析条件は、S濃度が100 ppb、積分時間が5 s、WTOが6 msであり、この条件下において相対標準不確かさを3.00 %から0.144%に小さくすることができた。最適条件下で認証値物質(0.04414±0.000026)を測定した結果,測定値が0.04940±0.000094であり,空間電荷効果,酸素との衝突による質量差別効果及び認証物質を用いた外部補正をした結果,0.04414±0.00018であり,相対不確かさ0.4%での測定が可能となった. MCIサンプラーを用いて捕集したAPM中に含まれる元素は,自然起源のグループとしては海塩粒子 (Na, K, Mg, Sr, B, S) と土壌粒子 (Ti, Sc, 希土類元素) に分かれ,人為起源のグループは鉄鋼工業 (Ca, Mn, Fe, Ni, Zn),化石燃料や廃棄物の燃焼・焼却 (V, As, Se, Cd, Sb, Pb),自動車部材と排気ガス (Cu, Ba, Rh, Pt)に分類された.また,土壌粒子は春季に,燃焼系を起源とする元素は冬季にフラックスが高くなり,流跡線解析の結果より中国大陸からの黄砂飛来と長距離越境汚染の影響があると示唆された.
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