研究課題/領域番号 |
15K21188
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
堺 健司 岡山大学, 自然科学研究科, 助教 (40598405)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | HTS-SQUID / 磁気センサ / 色素増感型太陽電池 / 磁場計測 / 電流分布 / 二酸化チタン / 色素 / 触媒 |
研究実績の概要 |
超高感度センサであるHTS-SQUIDとSQUIDを駆動させるための冷却機構を組み合わせ,各方向の磁場を検出可能な磁場検出装置を作製した。また,この磁場検出装置と自動ステージを組み合わせ,各方向の磁場を多点計測しマッピングするシステムを構築した。実際に導線や導体板を流れる電流が作る磁場を測定した結果,線電流や面電流と対応した磁場分布を得ることができた。また,測定試料と平行な2成分の磁場を合成することで,直下を流れる微小な電流の強度と向きが可視化できることを明らかにした。 次に色素増感型太陽電池を作製し,光を当て発電している状態で太陽電池上の磁場分布を計測し太陽電池内部の電流を可視化した。負極に使用する色素と正極の触媒材料を変え,特性の異なる太陽電池を4種類作製した。これらの太陽電池は4種類の特性がそれぞれ異なり,良好な特性であるかどうかは既存の評価法であるI-V測定で確認している。各太陽電池の電流の様子を可視化した結果,電流の強度は各電池の開放電圧・短絡電流に応じて変化し,電池内を流れる電流強度を評価できた。また,電流の流れる方向は,電池の特性に関わらず電池の正極から負極に向かう一方向であり,電池の特性が変化しても電池内を流れる電流の方向は大きな変化がないことも明らかになった。ただ,開放電圧・短絡電流が一番低下した電池では,部分的に電流の方向が異なる部分も存在することが分かった。 また,太陽電池に用いる透明電極を流れる電流分布も調査した。30 mm × 25 mmの透明電極に直流電流を流した状態で磁場分布を測定し解析を行った結果,電流が透明電極の導電層内を一方向に流れていることが分かり,透明電極内での不均一な流れなどは見られず,透明電極が太陽電池の電流分布に影響を与えないことも明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の計画は,①複数の超高感度磁気センサを用いて複数の方向の磁場を多点計測するシステムの作製,②作製したシステムの基礎特性評価,③色素増感型太陽電池を作製し,発電中の太陽電池から発生する磁場分布の計測結果より内部を流れる電流を可視化することであった。①については,各方向の磁場を計測する検出部と自動ステージを組み合わせたシステムを構築し達成した。②については,磁場分布計測システムの基礎特性評価として,導線や導体板を流れる電流が作る磁場を多点計測した。各点で電流に平行な2成分の磁場を測定し合成することで,それぞれの電流の大きさと方向に対応したマッピング像の実現を達成した。③は色素増感型太陽電池を作製し,その内部を流れる電流の様子をマッピングすることに成功した。以上の結果より,当初予定していた本年度の計画は達成できたと言える。 これに加えて,色素や触媒の材料を変え特性の異なる太陽電池を作製し,これらの電流分布の変化を測定することも試みた。その結果,各太陽電池の特性に応じて電流強度が変化すること,電流の方向は電池の特性が大きく劣化した場合に通常と異なる方向の成分も存在することを明らかにした。また,太陽電池に使用する透明電極の導電層を流れる電流についても測定を行い,電流は一様に流れることも調査した。これらの成果は,次年度の計画の一部であり,計画以上のことを達成しているため,現在までの達成度は計画以上に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,これまでに変化させていない色素増感型太陽電池作製時のパラメータ,具体的には二酸化チタン薄膜の膜厚や,膜の不均一性(膜中の部分的な欠陥),電解質溶液を変え,電流分布に変化が生じるかを確かめるとともに,光源の照度も変化させ,実用的な使用環境に対応する低照度時に電池内を流れる電流がどのようになるかも評価する。 また,色素増感型太陽電池の実用化を想定し,太陽電池の面積を大きくした場合の特性の変化と電流分布の変化を調べる。色素増感型太陽電池の面積を大きくした場合に電池の特性が低下することはすでに知られており,実用に近い大きさの太陽電池で特性の低下と電流分布の変化を調べることが狙いである。これに加えて,モジュール化を想定し複数の太陽電池を作製して接続した際の各電池における電流分布も評価し,モジュール内でのばらつきも評価できないかを検討する。 さらに,太陽電池に交流電圧を加えその周波数を変化させたときの磁場応答を測定する。これは電気化学の分野で一般的な評価法である交流インピーダンス法を,磁気的な手法により評価可能であるかを検討するためである。一般的な交流インピーダンス法では電極間のインピーダンスを測定しているため,電極間全体の情報しか得られないが,交流電圧を印加した場合の応答を磁気で計測する手法では,磁気センサ直下の局所的な交流インピーダンスに対応した情報が得られるのではないかと考えられる。まず,各周波数における交流電圧を印加した場合の磁場を測定し,交流インピーダンス法で測定したインピーダンスプロットと対応する結果が得られるかを確認する。さらに,局所的な交流インピーダンスや各セルの交流インピーダンスに対応する磁場応答が取得できるかも明らかにする。 最後に色素増感型太陽電池で得られた電流分布測定による評価法を燃料電池など他の電池評価へ応用できないかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を進める段階で周波数を変化させた交流電圧を印加しその応答を測定することで,電池の交流インピーダンス特性の局所的な評価を考案した。本年度は,旅費やその他の費用が計画より少なく,この分を前述の新規評価手法検討のための物品購入に充てることとした。
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次年度使用額の使用計画 |
高い周波数の磁場応答を検出するために,低周波から高周波まで対応したロックインアンプを購入する予定である。
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