研究期間の初年度に超高感度磁気センサのHTS-SQUIDを用いて磁場分布計測システムを構築し,電流が作る磁場から電池内を流れる電流分布の推定を試みた。測定試料と平行な2成分の磁場を検出できる計測システムを作製し磁場分布を測定した結果,電流の強度と向きを示すマッピングの取得に成功した。また,色素増感型太陽電池内を流れる直流電流分布を調べ,電流分布解析により太陽電池の特性改善に繋がる因子の特定を検討した。太陽電池に使用する色素や触媒を変え異なる特性を持つ太陽電池の電流分布を評価した結果,特性が極端に低下した場合のみ電流分布に変化が見られた。 しかし,直流電流分布の違いは,色素や触媒など太陽電池内のどの構成要素に起因するのかを特定できず,電池の特性改善には電池の構成要素と電流分布との相関性を明らかにする必要が生じた。そこで,電池内の構成要素を分離して評価可能な交流インピーダンス解析を応用した磁気計測による交流インピーダンスの推定手法を考案し,この手法の有用性を最終年度に検討した。本手法は,測定試料に交流電圧を印加し,その際に生じる交流電流が作る磁場の周波数スペクトルを取得することで,交流インピーダンスのスペクトルを推定する方法である。基礎評価として,電気回路内を流れる交流電流が作る磁場の周波数スペクトルを測定した結果,各素子の交流インピーダンスに対応した磁場スペクトルが得られることを示した。また,色素増感型太陽電池の磁場スペクトルと既存の装置で測定した交流インピーダンススペクトルには相関性があることを示した。この結果は,磁場スペクトルを多点計測することで,電池を構成する各要素に対応した電気特性の分布が評価可能であることを示している。このような電気特性分布の評価を既存の装置で行うことは難しく,本研究の成果は各種電池の特性改善因子を明らかにする新規の電池評価法として期待できる。
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