研究課題/領域番号 |
15K21198
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
椎木 幾久子 (阿望幾久子) 山口大学, 医学部, 助教(寄附講座等) (60609692)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 糖尿病 / 膵β細胞不全 / 脱分化 / WFS1 |
研究実績の概要 |
膵β細胞障害は糖尿病の重要な成因である。若年発症の糖尿病を主徴とするWolfram症候群のモデル動物Wfs1欠損マウスでは、進行性にβ細胞が減少し、高血糖を来す。このモデルマウスでは、β細胞の増殖障害やアポトーシスの有意な亢進は認められなかった一方で、インスリン陽性細胞が減少した時期においても、膵島細胞量は保持されており、膵ホルモン陰性内分泌細胞として存在していた。さらに、Wfs1欠損β細胞では、高血糖発症前よりMafA発現が著しく低下し、内分泌前駆細胞マーカーであるNeurogenin3の出現を認めた。さらにLineage tracing法にてβ細胞をYFPで永久標識し運命追跡を実施したところ、Wfs1欠損膵島では、インスリン脱顆粒または消失したYFP陽性β細胞が増加し、グルカゴンを有するYFP陽性β細胞まで出現した。これらの結果から、Wfs1欠損マウスではβ細胞は脱分化し膵内分泌前駆様細胞に変容しており、そのことがβ細胞減少の一因となる可能性が推測された。さらには、その一部はα細胞へ運命転換することが示唆された。 一方、Wfs1欠損マウスに過食・肥満を来すAgouti変異(Ay/a)を導入(Wfs1-/-Ay/aマウス)すると高血糖の進展およびβ細胞の消失が加速する。本マウスに対してSGLT2阻害剤を投与し、β細胞非依存的に高血糖を是正すると、インスリン陽性細胞量は回復しグルカゴン陽性細胞の増加が抑制された。しかし、MafA及びNeurogenin 3の発現変化には影響がなく、グルコース応答性インスリン分泌も回復しなかった。以上の結果から、病態進展には高血糖の関与が示唆されるものの、β細胞脱分化は高血糖とは独立した現象であり、β細胞脱分化とWfs1機能異常のより直接的な関連が推察される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に沿ってほぼ順調に遂行している。 現在までに、Wfs1欠損によるβ細胞消失の原因としてβ細胞脱分化および高血糖の意義を明らかにした。次の課題であるβ細胞の脱分化機構の解明のために必要なマウスや試薬の準備等は整っており、既に解析を進めているところである。
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今後の研究の推進方策 |
Wfs1欠損マウスで認められたβ細胞の脱分化には、Wfs1欠損による細胞内ストレスの亢進が関与している可能性を想定し、実験を進める。その中でストレス応答分子であるTxnipの役割について解明を進める。Wfs1;Txnip二重欠損マウスにおいてもβ細胞の運命追跡を行い、β細胞脱分化に対するTxnip欠損の影響を検討する。また、Txnipはエネルギー代謝制御への関与が報告されていることからも、Txnipを介したβ細胞運命の制御機構について細胞内エネルギー代謝機能の変化に着目し、マウス膵島のメタボローム解析を組み合わせて解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
分子生物試薬などの物品購入や組織標本作成外注が予定より少なかったため、その分の使用予定額が次年度使用額として生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
当初より計画していた解析に加え、さらに研究を発展させるため、マウス膵島のメタボローム解析の必要性が生じた。これらに次年度使用額と次年度請求する助成金を使用する。
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