本年度も引き続き、過誤還付金返還請求権の当事者決定問題に関するドイツの判例学説を研究した。わが国と同様、ドイツにおいても税法上の不当利得に関しては、民法の不当利得規定が適用されないことを原則としながら、民法と異なる規定を欠く場面では、民法の規定および理論が積極的に参照されている。租税債務関係に多数の利害関係人が関与する場合における、債権関係の当事者決定基準もその1つであり、連邦税務裁判所は、連邦通常裁判所が依拠する、受領者視界説を基礎とする利得法的給付概念を用いて解決を図っている。 もっとも、振込委託が有効性を欠く場合について連邦通常裁判所は、今世紀に入り、受領者視界説の代わりに権利外観法理を用いて受領者の保護を図ったが、さらに民法典内の振込法改正により挿入されたBGB675u条を適用して、受領者の保護を一切認めず、常に仕向銀行の受領者に対する直接請求を認めるとの判断を下すに至った。今年度は、BGB675u条施行後の下級審を含めた裁判例の動向および学説の対応を整理し、論文として公表した。そのうえで、連邦税務裁判所の諸判決との比較を行った。 また、譲渡債権が存在しない場合について連邦通常裁判所は、契約上の債権につき、倒産リスク・抗弁リスクの契約当事者間への分配という価値評価から、債務者の譲渡人に対する請求(譲渡人説)のみを認め、譲受人に対する請求(譲受人説)を認めてこなかったが、近時法定債権についても同様の判断を下すに至った。今年度は、これに関する諸判決および学説の対応を整理した。判例学説とも、譲渡人説を通説と述べるが、近時の学説は譲受人説のほうが多数であった。そこでの議論と、これまで整理した過誤還付金返還請求権に関する議論とを比較し、論文として公表する予定である。
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