研究実績の概要 |
臭素化ダイオキシン類(PBDDs)は、各同族体において塩素化ダイオキシン類と相対毒性強度がオーバーラップしているが、PBDDsに関する国際的な毒性評価は定まっていない。また、低臭素化ダイオキシンは海洋起源と考えられ、海産生物から検出されるが、毒性機序またリスク評価については不明である。本研究は、海産無脊椎動物を対象として、沿岸環境におけるPBDDs毒性リスクを評価することが目的である。本年度は、海産生物から高濃度検出される低臭素化ダイオキシン、1,3,7-TriBDDを海産アミ類に暴露し、RNA-seqによるトランスクリプトーム解析した。これに加えて、残留性有機汚染物質(有機塩素化合物)や工業用化学物質の環境汚染物質を暴露し、1,3,7-TriBDDによる転写産物の応答と比較した。各化学物質による発現変動遺伝子をK-meansクラスタリングで3つのクラスター(変動なし・誘導・抑制)に分け、1,3,7-TriBDDによって発現抑制した遺伝子群に着目したところ、筋収縮に関与する遺伝子の抑制が強く認められたことから、行動異常などを引き起こす可能性が推察された。さらに、主成分分析から、PBDD、有機塩素化合物や工業用化学物質の暴露によるアミ類転写応答のマップを構築したところ、1,3,7-TriBDDは有機塩素系化合物とは異なる毒性パスウェイを示すことを明らかにし、臭素化ダイオキシンの海産生物への毒性に関する基礎情報を得ることができた。
|