研究実績の概要 |
本研究は、海産生物に対する天然起源臭素化ダイオキシン類(PBDDs)の毒性リスクを評価することを目的としている。昨年度、低臭素化ダイオキシンの1,3,7-TriBDDを海産アミ類に暴露し、RNA-seqによるトランスクリプトーム解析を実施した。加えて、有機塩素化合物や工業用化学物質の暴露による転写産物の応答と比較したところ、1,3,7-TriBDDは有機塩素系化合物とは異なる毒性パスウェイを示す結果を得た。そこで本年度は、濃度依存的な応答について調べるとともに、1,3,7-TriBDD応答遺伝子群についてネットワーク解析による毒性発現機序を調査した。 先ず、1,3,7-TriBDD初期設定濃度を4濃度区設定し、暴露試験を実施した。これらをRNA-seq解析に供し、遺伝子発現解析を行ったところ、640~913遺伝子の発現変動(DEGs)が得られた。低濃度暴露群では遺伝子発現の誘導が多くみられたものの、高濃度暴露群では抑制される遺伝子群が多くみられた。共通して変動するDEGsは33遺伝子であった。各暴露群で得られたDEGsのヒートマップを作成したところ、特にミオシン関連遺伝子群について顕著に濃度依存的な発現抑制が認められた。 次にDEGsについてネットワーク解析を実施した。海産アミ類のデータベースは整備されていないため、ショウジョウバエのタンパク質間相互作用(PPI)ネットワーク情報を基に構築した。得られたモジュールについて遺伝子オントロジー、パスウェイベースで情報抽出したところ、シグナルトランスダクション、転写因子結合、TCAサイクル、ミオシン結合への影響が認められた。これらのことから、低臭素化ダイオキシンは、海域において海綿、紅藻、また関連バクテリアによって生合成されることが報告されており、その生合成の生物学的役割は不明であるが、甲殻類など他の生物には毒性影響を引き起こすものと考えられた。
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