南西諸島に生息する一部のカメムシ類では必須共生細菌の多型という極めて異例な現象が見られる。一方、それらのカメムシの日本本土地域の集団では共生細菌の多型は見られない。本研究課題の目的は、カメムシ類の必須腸内共生細菌がなぜ南西諸島でのみ多様化し、本土地域では単一の共生細菌に固定されているのかを明らかにすることである。特に土壌細菌群集中の共生細菌プールをソースとした共生細菌の置換による多様化機構に注目し、本土地域と南西諸島で土壌細菌群集を比較することで以下の仮説を検証する。 「南西諸島でのみ共生細菌の多様化が生じた理由は、共生細菌プールが南西諸島の土壌中には存在するが、本土の土壌中には存在しないためである。」 本研究を遂行することで南西諸島の生物多様性の新たな一面を明らかにし、昆虫生態学・微生物生態学・生物地理学など多岐にわたる学問分野に対して大きなインパクトを与える成果が得られることが予想される。また、昆虫類の必須共生細菌になりうる自由生活細菌が土壌中にどの程度存在し、どのように分布するのかは、共生の進化生物学のみならず応用昆虫学においても重要な知見となることは間違いない。 本土地域と南西諸島地域のそれぞれ複数地点について調査をおこない、概ね仮説を支持する結果が得られたが、共生細菌プールは本土地域の土壌中にまったく存在しないわけではなかった。今後の研究において、本土地域、南西諸島地域の両方で地点数をさらに増やして調査する必要がある。
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