研究課題/領域番号 |
15K21216
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
山下 洋平 九州大学, 人文科学研究科(研究院), 研究員 (40737243)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 喪葬儀礼 / 服喪 / 礼制 / 仏教 / 儒仏交渉 / 禅宗 / 支配秩序 / 公武関係 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、日本前近代における支配者層の喪葬儀礼を考察し、当該期の支配秩序や身分秩序の在り方を明らかにする計画である。平成27年度は、主に日中比較儀礼史の立場から、中国および日本古代における喪葬儀礼の研究を実施した。具体的には以下のような研究に着手した。 ①日本古代の礼制受容と喪葬儀礼の形成過程を正しく評価するために、近年、国家形成において古代日本との類似点が指摘されている北魏の喪葬儀礼を分析した。結果、孝文帝が文明皇太后のために導入・実施した礼制に則した服喪儀礼は、後の政治改革と関連する独自性の強い儀礼であったことを指摘するに至った。この成果は、「北魏文明皇后崩御時における孝文帝の服喪儀礼構想」(九州史学会大会東洋史部会、於九州大学、2015年12月)として報告した。なお、服喪儀礼と政治改革との関連性については種々の批判も出ているので、今後は当該期の北魏における多様な既存秩序を考慮した服喪儀礼の再分析が必要と考えており、正式な見解を得たうえであらためて日本との比較検討を行う。 ②日本の喪葬儀礼は礼制と仏教の影響を受けて形成されているが、中国の喪葬儀礼においても儒教と仏教(禅宗)の交渉が認められる。したがって、日本的特質を明らかにするための前提的考察として、王応之(南唐)『五杉練若新学備用』中の喪葬儀礼に関する項目を中心に読解を行った。読解は概ね順調であり、適宜読み下しや注釈の作成も行っている。服喪儀礼の在り方等、離俗した仏教者が家族道徳を基盤とする礼制をどのように受容したかが概ね明らかになりつつある。今後、さらに状況を明確に把握したうえで、禅宗の影響が顕著な室町期の喪葬儀礼との関連性を検討していく。 以上が主な研究成果であるが、その他、中世・近世の喪葬儀礼、公武関係、支配構造に関する文献、および史料を収集した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、初年度は、平安から中世にかけての喪葬儀礼記事を網羅的に収集・整理していく予定であった。しかし、記事を確認していくうちに、先に分析視点を多様にしておくことが重要であると感じ、国家形成において日本との類似が注目されている北魏の喪葬儀礼、および中国の禅宗喪葬儀礼の在り方を初年度に検討することとなった。本研究課題では、日本の事例を正確に位置づけるために、唐代以外の中国礼制にも注目し新たな儀礼の構想や枠組みを摸索する計画であった。したがって、北魏の喪葬儀礼がある程度見通せたことは研究の進展と考えられる。また、禅宗喪葬儀礼の解明は次年度に行う予定であったもので、これを初年度に『五杉練若新学備用』の講読を通して、概ね明らかにできたことも進展と考えている。事例の収集・整理作業は当初の計画程進捗していないが、このように新たな分析視点を初年度に得ることができたので、上記のように評価することができる。
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今後の研究の推進方策 |
北魏の喪葬儀礼に見られた礼制受容の在り方や、中国の禅宗における儒教的喪葬儀礼の形成といった初年度に得ることができた知見を意識しつつ、日本古代・中世における喪葬儀礼の事例を収集・整理していく。具体的には支配者層の死去に際して実施される服喪の実態に注目し、礼制受容の諸特徴や喪葬儀礼における儒教(礼制)と仏教の位相を明らかにしていく。ただし、北魏孝文帝の実施した服喪儀礼の意義については再検討すべき部分もあるので、こうした点を適宜考慮して日本の事例を考える比較材料とする。 その他、古代や中世の葬送儀礼を復原するため有効である近世の故実書や絵画史料の収集、および中世の公武関係、支配構造に関する文献の収集は、初年度に引き続き行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
必要書籍等の購入を計画していたが、少額であったため次年度の助成金と合わせて使用 することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
書籍や事務用品の購入費、およびデータの収集・整理を行うにあたってのアルバイトの雇用経費、史料調査や研究会への旅費(関東・関西方面)、その他、文献複写や研究成果発信の費用に使用する。
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